プロローグ
『これは我が彼の者達の記憶を垣間見た時の話である』
魔王を討伐した。
激戦だったが、パーティーの連携で1人の犠牲者なく大勝利した。疲労困憊で地面に座り込む。ヒーラーを担っている精霊使いシェリロルの魔力を疲労に使う訳にはいかない。軽傷くらいなら回復なしで帰還するに他ないだろう。無事に帰還出来るまで気を抜いちゃいけない。
勇者のリアトは達成感と安堵感で呆然としていた。とんでもない魔法を使う癖して傍から見たら弱者にしか見えない。
「イヴィ、君の願いが…ううん。僕たちの願いがやっと叶ったね。これでイヴィの望む世界が見れるかな」
騎士のグレアムが呟いた。まだひと勝負できそうなくらい清々しく、意気盛んだ。
「そうだね、グレイ。残党は倒さなきゃだけど、平和に近づいた」
「これで僕もイヴィのワガママから解放されるね」
「うっさい」
そうやっていつも私を揶揄う。
「少し休んでから帰りましょうか」
「もうこんなとこ来ないし、眺めておくか」
精霊使いシェリロルと暗黒騎士エリィのご機嫌な声が聞こえる。
魔王を倒したとはいえ、帰路には危険が伴う。休息をとってから帰るとしよう。
グレアムが胡座をかいて座っていたので、私は膝に飛びかかって倒れた。いくつか文句を言っていたが建前の文句に過ぎない。彼はそういう男だ。
勇者リアト、暗黒騎士エリィ、精霊使いシェリロル。めいめい疲れを癒している。
みんなが幸せそうに笑っている。笑顔が愛しい。私は今までの旅もみんなのことも大好きだ。だから、その笑顔が地に落ちることはないはずなんだ。
シェリロルの純真な笑顔が傾いていく。そして歯止めが効かないまま地に流れ落ちた。シェリロルの首が、首だけが胴体と分裂した。
「シェル…?」
絶望と同時に我に返って、自分の背と同じくらいの魔杖をとった。魔力を極限に込める。魔王戦で大幅に消費したとはいえ、魔力量には自信があった。
「どこ…どこなの」
魔力探知が働かない。斬撃は確実に私たちを襲っているのに、発生源がどこか分からな──
誰かの鮮血が私の視界に入った。いや、私の血だ。立つこともままならず、無意識に身体が倒れた。
息ができない。視覚がまだ働く。働かないで。嫌だ。私の仲間が次々に斬られていくのを無力に見ていたくない。何も出来ない。何も発せない。
「イヴィ!!」
グレイの声をもっと聞いていたい。私はまだ──
「イヴィアナ!しっかりしろ!!」
リアトが手遅れの私を救おうとして揺さぶるが、その隙に無惨にも斬られた。
リアト──いつの間にか本当の勇者になっちゃって、私は困惑しているんだから。最初は臆病な男の子だったのに。
リアトに手を伸ばす。
あんたの英雄譚はまだ始まったばかりでしょう?
瞼を開ければきっとあんたがこの世界に降り立ってくれたあの日を映してくれる。