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05 ミラクル・ミラクル!

【スマホ・私と手を合わせて……。】


◆東京に暮らす白野愛雪<しろの・まゆき>が、桜の季節に大木琥珀<おおき・こはく>のふるさとに来た。

楽しい時間を過ごすもホテルの前で別れる。

その後、とんでもないことが起きてしまった。


◆登場人物


白野愛雪<しろの・まゆき>:女性。大学二年生。


大木琥珀<おおき・こはく>:男性。社会人一年生。


☆★☆彡**********☆彡


琥珀(こはく)くん、桜が城址公園に散り始めたわね。東京から遠路はるばる来てよかったわ」


 三つ年上の彼、毎日大好き。


「北のふるさとでは、桜の影に雪も残っている。それもいいな。愛雪(まゆき)ちゃん」


 花見目的でざわつく。

 これ位が、琥珀くんと私には丁度いい。

 いつも遠距離恋愛の私達には。


「琥珀くん、見て! 私の桜色した帽子に――」


「ああ。桜の花びらがあるな。可愛いからじっとしていて」


 私がはにかんでいると、琥珀くんがスマホでアングルを決めた。


「はい、目線は僕にね」


「やーだー」


 とても恥ずかしくなって、帽子を目深に被った。

 けれども、彼が帽子をさらってしまう。

 花びらが何枚か降って来て、私は上を見上げる形になった。


「私の鼻が、真上に向いていなかったかな」


 顔を覆って、スマホの画面を覗き込む。

 近寄り過ぎて、二人で頭をぶつけてしまった。


「よく映っているよ」


 私は、写真を撮られるときにいつも目を瞑ってしまうのに、その日はミラクルが起きたようだ。


「わ、目にきらきらが」


「これって、スマホで効果付けたんだけれども、愛雪ちゃんが輝いているって思うんだね」


 彼の背中をポコポコ叩いた。


「やーだー」


「よく叩くな。白野(しろの)愛雪(まゆき)ちゃんは」


 私は、フルネームに弱い。

 だって、琥珀くんは、大木(おおき)琥珀(こはく)くん。

 結婚したら、私はあなたの苗字になる。


「今度、僕の母さんが美容院を開いているから、おいでね」


「どうして」


 彼にフォーカスが当たっていたけれども、桜にぼかした。

 だって、恥ずかしいじゃない。


「さっき、髪がむしゃくしゃになっちゃったから。どうかな、ゆるくパーマでもかけてみたら」


「て、てー、てー。私、ご実家デビューなのかな。大学生だけど、大丈夫でしょうか」


 驚いて、桜で息ができなくなりそうだった。


「学割じゃなくて、家族割でね」


「てー。違うわよ」


 その日、私はホテルを予約してあり、琥珀くんがタクシーで送ってくれた。


「じゃあ、また明日ね」


「うん、僕はこのまま帰るよ」


 電話しよう、そう指切りをして、別れた。

 また、会えるんだよね。

 いつもより近いんだよね。


 受付を済ませて、やっとベッドに腰掛けた。

 すると、ホテルに備え付けの電話が鳴った。


「私、スマホあるのにな」


「お客様、白野様ですか」


 受付の声が高かったので、嫌な予感がした。


「は、はい」


「大木琥珀様が、市立病院から電話で、タクシー事故でお怪我をなさったようです」


 私は頭が真っ白になりながら、市立病院へと駆け付けた。


「琥珀くん!」


「手術が続いていますので、こちらでお待ちください」


 時間がどれ程経ったのか分からない。

 医師が一人通りかかった。


「どうなんですか? 琥珀くんは。私達、将来を約束している間柄なんです。白野愛雪です」


「初めまして、琥珀の母、生子(しょうこ)です」


「こちらでご説明いたします」


 医師は、丁寧に説明してくれた。


「では、今後、琥珀くんは、手のリハビリが必要になるのですか?」


「琥珀の手がですか」


 私は、琥珀くんのお母さんと一緒に心を冷やしてしまった。


 それから、暫くして、琥珀くんの目が覚め、手術室から出て来た。


「あ、母さん……」


「よかった、意識はあるのね」


 ゆっくりと近づくお母さんの後ろから、私も琥珀くんを目で励ましていた。


「愛雪ちゃん……」


「大丈夫! 私、こっちに引っ越すね」


 私は、涙を拭ってうわずる声も抑えた。


「え? 何でまた」


「私ね、私――」


 琥珀くんの力になりたいと強く思った。


「琥珀くんが、元気になるまで、一緒にいたいの。こんなときに傍にいないで、一生添い遂げたいだなんておかしいよね」


 怪我をした右手を慈しむように触れる。


「私の写真を撮ってくれたり、私のスマホにコールをくれたり、皆、琥珀くんのお陰だよ」


 泣かないで言うんだ。


「――貴方の手になりたい」


「愛雪ちゃん……」


 貴方の手になりたい――!


 ◇◇◇


 琥珀くんの手は、十月にはすっかりよくなっていた。

 私の魔法が効いたのかな。


「もしもし、愛雪ですよ」


「僕だよ。今、母さんの美容院を掃除していたんだ」


 タイミングが悪かったかな。


「ミラクルだよね。もう私が番号を押さなくても電話ができるだなんて」


 本当にミラクルってあると信じていたよ。


「お気に入りに入っているから、愛雪の顔を押すだけでいいんだって」


「てー。おでこ押したわね」


 私は、痛がる振りをした。


「また、ミラクル論を展開していただろう」


「ばれちゃった!」


 そして、私が卒業したら、結婚してくれる約束を囁いてくれた。


 ありがとう、琥珀くん。


   【05 ミラクル・ミラクル! 了】

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