10 金銀桜、その先へ
【ゴール・桜並木に銀婚式、ゴールとその先があるようで。】
◆真白小雪<ましろ・こゆき>が、幾つかのゴールで感じたことを綴っております。
とある並木道や人生について、考えさせられました。
◆登場人物
真白小雪<ましろ・こゆき>:銀婚式を迎える。
小雪の家族達:それぞれに積み重ねたものその先のものがある。
☆★☆彡**********☆彡
私は、少々離れた所へ健康診断に来ていた。
実の父、晃昌がお迎えに来てくれる。
クラウンでてっきり真っ直ぐお帰りかと思っていたが、甘かった。
「小雪、水資源公園に桜があるよ」
急なお花見ドライブとなる。
桜のトンネルは、公園沿いからスタートした。
そして、違法駐車が沢山ある中、くねくねと曲がりながら進む。
ときに、左右の桜が車の上で手を結んでいる。
しらしら、しらしらと、少しだけ散り行く姿も美しい。
情緒豊かに感じた。
「ここから、家に帰るから。小雪」
「そうね、いつまでも見ていたら終わらないもの」
美しい、桜トンネルをお父さんと潜った。
もう、高齢だし、今後は難しいかも知れない。
桜並木のゴールに未練があった。
けれども、お留守番をさせている家族も心配で、早く元気なママを見せたい。
◇◇◇
お礼も言えずに子ども達の待つ家に帰って行ったので、メールを送った。
『こんにちは。お父さん、本日は桜のトンネルをドライブさせていただき嬉しく思いました。日本の心でしょうか。甘い春色にときめき、また、枝にしがみつく花の姿に励まされました。新入学、そして、進級とありますが、大変ながらも楽しみであります。』
そして、『子どもらへ 桜心の 新しさ』と、一句を寄せた。
『花粉症など、ご自愛ください。真白小雪』
メールの終わりを結んだ。
「ただいま」
今日のゴール一回目となる。
◇◇◇
疲れて寝てしまったところへ、夫が帰宅した。
「皆、支度して。出掛けるから」
今日は、特別なお招きがあった。
社会問題が生じてから、初めて夫の車に家族で乗った。
「佐助さん、夜桜をライトアップしているのかしら」
「そうだろうな、小雪」
「後ろがトタンなのが残念だけれども、綺麗ね。桜は好きなのかしら」
「そうでもないよ。ソメイヨシノより、八重や枝垂桜の方が好きだな」
特に言わなかったが、私は、明るい内にも桜を堪能していた。
夜桜も長く楽しめたが、川がなくなると見えなくなった。
今日のお花見ゴール二回目となる。
◇◇◇
何故、夫とドライブしているのか。
昨夜のことだ。
義理の両親が、秋田から東京方面へいらっしゃったそうだ。
道理でお米のお礼に黒電話にかけても出なかった訳だ。
それで、義父に卒業写真をメールした。
娘の雛雪が桜を傘に卒業証書を抱いている写真だ。
そんな折、夫のスマートフォンに電話がかかって来た。
「あー。親父、なした?」
「明日出て来られるか? 佐助や、仕事はあんのか?」
真白家の両親もやはり働いているのかが心配なのだろう。
一番小言の多かった祖母は亡くなられてしまったし、祖父は黙って息を引き取った。
「仕事はあるから大丈夫だ。だから、がんばっても七時位にはなってしまうよ。現場が遠いんだ」
「じゃあ、前のステーキハウスに来てくれよ。皆さんで、ははは」
この頃のお義父さんは、息子へ思い立ったら電話をして来るようになっていた。
県をまたいでの移動に制限が掛かってから、寂しいのだろう。
◇◇◇
夫とのドライブも終わり、待ち合わせのお店へ着いた。
店の前で待たせてしまい、悪かったと思う。
時間もあるので、直ぐに店内に入る。
「私は、三月に五十歳になりましたよ、お義母さん」
小雪がステーキハウスの奥に腰掛ける。
「昨日、結婚したばかりだと思ったわ」
お隣の席に絵子お義母さんが椅子を引いた。
ツンとした会話の山葵が堪らない。
「あはは……」
私は笑うしかない。
向かいに夫がいたので、初々しかった私達を思い出した。
私は、白いレースで覆ったワンピースにボレロを着ていた。
ホテルのレストランで、お互いの両親と佐助さんに小雪だけの会食をしたのを忘れない。
大学で知り合って二十八年半になった。
今年銀婚式にもなる訳だ。
様々なことを乗り越えて、積み重ねながら、ゴールの先を歩んで来た。
「小雪さん。今年は、金婚式ができないんだけれどもね。写真だけ撮って置いて、遺影にしたわ。私は、余り写真を撮らないものだから」
お義母さんの話に飛び付いた。
上には上がいるものだ。
義理の両親の恋愛は気になるけれども、訊き難い。
親戚すじから、恋愛結婚だと聞いた。
恋愛のゴールイン、結婚をなさったのが、五十年前になるらしい。
「今年、金婚式なのですね」
「そうなのよ。五十年よ」
人生のベテランだ。
流石、金婚式ご夫婦は貫禄がある。
「おお、雛雪と雪助に、何か甘いものを頼んだらどうだ?」
「ほら、おじいちゃんが奢ってくれるって。メニューにパフェとかあるよ」
パパがメニューを渡し、二人はアイスを注文していた。
「金婚式で、ともめでたいことですね」
「そうよ、二十五のとき、佐助を産んだのだから」
「そうか、私達も銀婚式なんですよ。丁度二十五年差ですね」
私達は子どもに恵まれるのが遅かった。
けれども、恋愛のゴールと言われる結婚にいたる。
その先には、子ども達を授かった。
「ごちそうさまでした」
帰り際に挨拶をして、駐車場で別れる。
秋田銘菓をお土産にいただいてしまった。
「おおー、雪助は大きくなったな。ママよりも」
「雛雪ちゃんも伸びて来たわよ」
秋田からいらした二人には、これがお土産になるのかも知れない。
「将来、どうしたいのか考えなさいね」
お義父さんの言葉にどきっとした。
子ども達には、まだ、ゴールが見えない。
「ゴールは、桜並木を抜けてしまったように終わってしまうと未練があるもの。でも、期待していると、ゴールは掴めないものよ」
私は、しゃがまなくても話せるようになった子ども達に話しかける。
「何になりたいかも大切だわ。何になろうかも……。人として、人生の最期まで、がんばって欲しい。決して道を外れないでね」
家庭でも様々なことがあった。
沢山のスナップが私の胸を過る。
いいこと、残念なこと、日常のこと。
私は、どんなことでも無駄な記憶力とやらで捨てられないでいる。
さて、今日は、実母に貰ったお小遣いで、お買い物の練習をしよう。
お小遣い帳とお財布とその中身を持って、出かけましょう。
「行って来ます!」
先ずは、スタートです――。
【10 金銀桜、その先へ 了】




