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世界は青くて蒼い

『世界は青くて蒼い』

そんなタイトルの本を見てふと立ち止まり手に取る。可愛らしくも美しく、透き通るような繊細なような、表紙に描かれた美少女の絵を見て購入を決めた。

本来であれば今日は漫画の最新刊を買いに来たのだがこの表紙を見てつい購買意欲をそそられた。普段漫画を中心に読むためラノベなんて買う事は無いと思っていた。過去に一冊だけラノベを買った事があったが、内容が酷すぎてそれ以来買う事はなかった。もし買うとしても内容をちゃんと確認してから。以前決めた事なんて忘れる程に表紙の美少女に衝撃を受けた。

(帰ったらこのイラスト描いてる人をフォローしておこう)

俺は漫画も併せて購入し、早く帰って読みたいからと少しテンション高めで帰路に着いた。


帰って自室に入ってすぐさま買ってきたラノベの透明フィルムを破いていく。新冊独特の匂いが鼻腔をくすぐりさらに期待をしてしまう。この物語はいったいどんな気持ちにさせてくれるのだろうか。

表紙を開き、見開きの幻想的なワンシーンの描写が目に映る。海色の瞳に藍色の長い髪。白いワンピースを着た少女が遠くを見ながらアイスを食べている。日本で1番高いタワーの上で。

描かれた舞台は東京だろうか、たくさんのビルが並ぶその都市は、半分以上が海の中にあった。あぁ、衝動で買ったラノベだが買って後悔はやはり無かった。

「青いな」

空の青と海の蒼。そして少女の頬にはその両方が混じった色が、小さな瞳からこぼれ落ちていた。

俺は、理由の分からない涙を一滴こぼしながら静かに本を読んでいった。



物語の序盤、それは何でもない日常が、波のない水面のような日常に投げられた一石だった。

学校でのホームルーム、昨日の小説を思い出しながら先生の話を聞いてるフリをする。ふとそこに投じる一石。

気配がして廊下を見れば、海色の長い髪をした美少女が歩いていた。彼女は何事にも興味を示すことなくただ通り過ぎて行くだけだ。声が出なかった。あまりにも美しい彼女を見て一目見て心を奪われたのだ。

正気に戻り先生トイレと言い残しながら教室を出ていく。廊下には既に少女の姿は無い。もう消えたのだろうか、それともあれは幻か。不安をかき消すように廊下を駆ける。この廊下の先には階段があり、もしいるとしたらそこしかない。階段の先、そこには、

一段、また一段と上がるごとに影が薄くなっている先ほどの少女がいた。

「ねえ!」

今度は声を出せた。少女は振り返るがこちらに気づいた瞬間に完全に消えた。

「あ・・・」

よく、推しがいなくなったとかいう友達がいたが、こんな気持ちになるのかと深く理解した。その後、俺は担任に怒られた。どうでも良かったが。


その日の帰り道、俺は愚痴を溢しながら帰っていた。

「ったく、担任も説教はもうちょい短くしろってんだよなああいつ。おかげで今日は居心地悪かったしよお」

「悪かったんだ?」

「まあな。けど、とっても可愛い美少女を一目見れたからプラマイプラかな」

「ふーん、それより今日のご飯なに?」

「たしかハンバーグだってうちの母親が言ってたかな」

…おかしいな、独り言がいつのまにか会話になってる気がする。

「ハンバーグ?おいしい?」

脳内で勝手に幻聴を捉えて会話になってるのだろう。それかいつのまにか友達が後ろにいるとか。ぼっちだし声似てるやつ知らんけど。

「ねーえ、聞いてる?」

「聞いてるよ」

振り向けばそこには、朝消えたはずの少女がいた。海色の長い髪、蒼色の瞳、そして白いワンピース。

息を呑む美しさに、俺は今日いなくなってもいいなんて考えてしまっていた。

そんなアホなことを考えている俺に彼女は微笑みながらお願いをする。

「ねぇ、しばらく泊めてよ」

はぁ?と聞き返すも彼女は同じ返答をする。

「わたしここにきて誰ともお話してこなかったんだよ。もう寂しくてさ、ちょっとだけでいいからお願い!わたしを救うと思って」

「んなこと言われてもなぁ」

そう言いながら彼女を改めて見ると違和感があった。

地面に足がついていなかったのだ。

「あんた、もしかして幽霊か?」

「ゆーれい?あー、まぁ死んだし確かに言われればそうかな。ほら、他の人私のこと気づいてないみたいだし」

確かに周りの人の視線は彼女ではなく俺に──って

「あ、まってよぉ」

そう、彼女が見えていないと言う事は俺は虚無に向かって喋るイタイ人になるのだ。人生でこれほど恥ずかしい思いをしたことはない。

あと後ろからついてくるのがすごい可愛い。

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