九話
毎日三話更新
私の困惑は解けないまま、式神召喚の儀式が始まった。
「田原直治……前へ」
召喚補助の男性職員に向かって呼ばれた男子は歩いていき、一枚の札を受け取った。
男子は渡された札で左の親指を軽く切ると札に向けて指を押し付け血判を記した。
すると札は青く燃えて消え去り、足元に描かれた五芒星の陣が青く輝いた。
眩しさに私は一瞬、目をつぶってしまったが目を開けると、五芒星の陣の中央には小鬼らしき赤黒い肌をした小さな人型の生き物が現れていた。
「くそ、小鬼か……」
男子は悔しそうに踵を返した。すると小鬼も青い光の粒となり霧散していった。
「あれ? 消えてしまいました……」
「出てきた式神を必ず使役しなきゃいけないわけじゃないのさ」
雨宮さんは私の疑問にすぐに答えてくれた。
使役するなら強い式神がいい。考えてみれば私でも理解できる当然の心理だ。
「ふん、三流が……格の違いを見せてやる」
大竹は鼻で笑い、すぐに名を呼ばれ、五芒星の陣の前に立った。
渡された紙に血判を記すと、陣は先ほどとは明らかに違う反応を示した。
青い輝きとともに電光がバチバチと音を立てて轟音とともに何かが現れた。
筋骨隆々の成人男性のような姿をしていたが、額にはねじれた角が二本生えていた。
「馬鹿な……鬼神だと……」
式神召喚の補助をしていた職員の男性が思わず驚愕の声を漏らしていた。
鬼神と呼ばれた式神は大竹に向かって歩み寄ると片膝をついて服従を示した。
「おまえを我が式神としよう。普段は霊体化しているように」
式神は大竹の言葉に従い、霊体化をして透明になり見えなくなっていった。
鬼神が呼び出されるなど、百年間は少なくとも記録には残っていない。
大竹が口だけの男ではなかったことに驚いた。
「鬼神なんて引きやがって弟子入りどころか、歴史に名を残すこと確定じゃねぇか」
ため息を吐きながら雨宮さんは賞賛と驚愕の入り混じった苦い顔をしていた。
そのあとも何人かが式神の召喚に挑み、ほとんどの者が小鬼を引き当てて使役を諦めて去っていく光景が続いた。
「雨宮千鶴……前へ」
頭を掻きながら気だるげに雨宮さんは五芒星の陣に向かっていき、渡された札に血判を記すと陣が輝きだした。
そして、現れたのは大竹の召喚した鬼神ほどではないが、体格のいい成体の鬼だった。
「ウァーーーーッ!」
突如として叫び声をあげて雨宮さんの呼び出した式神は走り出した。
式神の走る先は雨宮さんの方向だった。式神は拳を握りこみ表情も殺気に満ちていた。
「雨宮さんッ!」
取り乱す私に対して、冷静に雨宮さんはため息を吐くと指を小刻みに動かした。
その瞬間、今にも殴りかかろうとしていた式神はピタリと動きを止めて、地に頭をつけて服従の姿勢を取っていた。
「はぁ、あたしの式神はずいぶんと、じゃじゃ馬だねぇ。まぁ、鬼神ほど強くはなさそうだけど十分だな。お前さんを使役しようじゃないか」
ぱちんと指を鳴らすと式神は透明になり霊体化して消えていった。




