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最終話

今回が最終話になります。

お読みいただいた方、ありがとうございました。

「ここは私の実家。千年続いた坂田の家。母さんと父さんにもお礼がしたくて」


「そうか。ここが……。私も挨拶をしなくてはな」


 俊宗は自分の着物が着崩れていないか確認をして、姿勢を正した。


 私は久々の実家の門をくぐり、戸を叩いた。


 遠くから「はーい」と母の声が聞こえてきた。家から出て数日なのに随分と懐かしく感じてしまった。


 戸が開かれると十二単を着た私のことを見た母は全てを察して、静かに力強く抱きしめてくれた。


「お父さんを呼んでくるわ」


 母さんは俊宗に一礼をすると、家の中に戻っていった。しばらくして、バタバタと大きな足音を立てて勢い良く戸が開き父さんが出てきた。


「鈴、鈴! いや、鈴鹿って呼んだ方がいいのか? わからん。とにかく、よかった」


「鈴でも鈴鹿でも好きな方でいいよ。私はずっと父さんの娘だから」


「あなたが田村丸俊宗……。私たち坂田の家の悲願なのですね」


 母の問いに俊宗は「はい」と強く短く肯定した。


「娘をお願いします。他の男なら誰にも渡さないつもりでしたが、あなたなら……」


「任せてください。私の生涯をかけて鈴鹿を守ると誓います」


 生真面目な俊宗は父に深々と頭を下げて宣言していた。


「でも、父さん、そんなふうに思ってたの? もう、ばか」


「ふふ、ばかでいい。……それにしても、立派になったな。見違えるようだ」


 家にある十二単とは美しさが別物だった。これが千年以上前から存在するものとは信じがたいが、第六天魔王という神が造り上げたものだ。


 込められた神秘は計り知れない。


「鈴はこれからどうするのか決まっていますか?」


「……天狗のもとで神通力を学ぼうと考えているの。大嶽丸には勝てたけれど、力不足な感じがした。何からでも俊宗を守れるように強くなりたい」


「強くなったのね。母はあなたを誇りに思います。今日くらいは泊まって、いろいろ話を聞かせてくれませんか?」


 私は頷くと俊宗の手を引いて、家に入っていった。




 善き友を持ったこと、善き師匠を持ったこと、強敵だった大嶽丸について両親に語り、その日は大いに盛り上がった。


 そして夜も深まり、布団の上で横になっている私の隣には俊宗がいた。


「千年間ずっと寝ていたけれど、また眠れそうですか?」


「今は全然眠れそうにないな。でも、鈴鹿の隣にいることにする」


 私は嬉しくなって俊宗の手を握って肩をぴったりとくっつけてしまった。


「自分が鈴鹿御前とわかってから、ずっとこうしたかったのです」


「本当に大変だったな。信太師匠が白峰様と話をつけてくるまでは、こうしてゆっくりしていよう」


「いいですね。そんなこと言われてしまうと、白峰様にずっと話がつかなければいいなんて思ってしまいます」


「そんなこと言っておいて白峰様が見つからないとなったら、自分でも探しに出かけてしまう。鈴鹿はそういう人だろう?」


「えぇ、その通り。生前は短かったけれど濃い時間を過ごしたように思います。けれど、今生は少し緩やかに過ごしたい。……そう思います」


「大嶽丸も、もういないんだ。ゆっくりと長く生きよう。でも、世の理不尽を見てしまったら、私はまた人々のために尽くしたくなってしまうんだろうな」


「それでこそ田村丸俊宗です。その時は私も一緒ですから」


 平安の頃と江戸の今では多少は人々の生活は良くはなっているように思える。


 それでも、生活に苦しんでいる人は必ずいる。


 俊宗はそんな人を救わずにはいられない。だからこそ、私は俊宗と意気投合して好きになったのだ。


 理不尽に怒り、不条理に嫌い、悪意に抗う。正義という言葉の体現者。


 私はどこまでも、俊宗について行きたかった。


 今生はそれが叶う。そんな希望が持てるようになっただけでも私は救われた。


 私は安心と疲れからか、緩やかに眠りに落ちていった。




 翌朝、朝食を家族で食べ終えた私は門の前で両親に見送られるところだった。


「信太師匠が天狗に話をつけてくれるまでは夜行寮にいるからね。天狗のところで学ぶようになったら、また顔を出すから」


「いってらっしゃい。いつでも戻ってきていいのですからね」


 私は「はい」と頷いて、俊宗の手を握った。


「いってきます!」


 両親が手を振ったのを見て、私は頷いて神足通で夜行寮の入口まで転移した。


 未来が希望に満ち溢れていて私の足取りは軽かった。


 そして隣には俊宗の爽やかな笑顔があった。


 私たちは心の底から晴れやかな気持ちで、夜行寮の門をくぐったのだった。

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