七十話
毎日三話更新
「ふ、ふたりとも何を笑っているのですか?」
私の質問に千鶴は笑いながら答えた。
「だって、そりゃ笑うだろ。あんたら恋人同士じゃなかったのかよ? なんだその初心なやりとりは?」
「そ、それは……人前で睦まじい姿を見せるなんて生前ではなかったものですから……」
千鶴は「ほんとか?」と何故か信じていない様子だった。千鶴と信太師匠は、こそこそと私や俊宗の名前を出して、あれこれ小言で話していた。
「そういえば、二人は随分と仲が良くなっているのですね」
「鈴鹿サンの決着を待っている間に意気投合してしまってね。太白博士のところで一人前になったら、次はワタシの弟子になって結界術を教えるという約束をしたのさ」
千鶴は現在の師である太白博士のことは野心の欠片もない穏やかな人で、あまり好みではないと以前に宣言していた。
信太師匠は千鶴好みの『夢追い人』ということなのだろうか。
「それは楽しみですね。千鶴……」
「おう。つまんねぇ書物の暗記なんて、さっさと片付けてやらぁ」
千鶴は勢いよく握り飯を平らげ、満面の笑みを浮かべた。
「まぁまぁ、江戸の防衛を皆と連携するには必要な知識さ。ただ、雨宮サンは式神操術の方はすでに一人前だから、連携の仕方さえ覚えてしまえば即戦力の貴重な人材だ。結界術を本当に覚えてしまうかもしれない才能の持ち主だよ」
信太師匠に褒めてもらい千鶴は上機嫌だ。
「結界術を覚えることができるなんて千鶴のことが羨ましい限りですね。使えたら神通力並みに便利そうですよ」
「やっぱり鈴もいろいろ結界術の便利なところを体験したみたいだな。あんなのを見ちまったら覚えたくもなるってもんだよな」
千鶴に明確な目標ができて、私も自分のことのように嬉しくなってしまった。
私と千鶴はお互いに目標を明確にすることができて、未来に希望を見ることができるようになった。
俊宗や信太師匠という支えてくれた人がいたからこそ、この光景にたどり着くことができたのだろう。
私に関しては、いくつもの奇跡が重なっているのは自覚しなくてはならない。
数万、数億の他の世界で生きようと足掻いた『わたし』が初めて辿り着いた、大嶽丸の完全討伐。
千年前から今に至るまで続いた坂田の家系。家系が途絶えてしまう世界もあった。
そもそも、俊宗と出会わずに盗みを続けて二十五歳で鈴鹿御前として死ぬ『わたし』も他の世界によっては存在した。
ありとあらゆる選択肢の中から、鈴鹿御前としての人生として一番幸せな世界になるかもしれない。
いや、してみせる。
「二人とも、俊宗と行かなくてはいけないところを思い出しました」
「そうかい。いってらっしゃい。ワタシは雨宮サンと、もう少しゆっくりしているよ」
千鶴も「いってきな」と手を振ってくれた。
「どこのことだろうか? まぁ鈴鹿に任せる」
私は俊宗の手を取ると神足通で、実家の前に転移した。




