六十八話
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私と千鶴の寮部屋の前に来てみると、夜行寮職員のものとみられる鬼の式神が焼け焦げた木材を片付けていた。
「……まったく大竹のやつ。爆破なんてしやがって、まだ書物の暗記終わってねぇぞ」
書物の類も残らず灰になってしまっていた。両隣の部屋は空室だったため、人的な被害は出ていなかった。
お互いに私物は少なかったので個人としての損失は小さいが、寮の運営者としては迷惑極まりないことだろう。
私たち四人は大嶽丸との決戦でそれぞれ全力を尽くして、各々疲労していたことで自然と私たちの足は食堂に向かっていた。
早朝の爆破から昼時の現在まで、何も食べていなかった。
歩きながら、信太師匠は思い出したように私に尋ねた。
「さて、鈴鹿サン。これからはどうするんだい? 江戸の防衛なんて退屈な仕事でもしてみるかい?」
「わがままを言うようで申し訳ないのですが、私は天狗の元で神通力を学びたいと思っているのです。大嶽丸との戦いで力不足を実感しましたので……」
今後、どんな困難に遭遇するかわからない。できることは増やしてしておきたい。
六神通の内、私は神足通と宿命通しか使えない。生前は未来を見通す天眼通を使えたが今は使い方を思い出すことができない。
「ワタシも鈴鹿サンは天狗の元で学ぶ方が良いと思っていたところさ。近々、白峰を呼びつけるからその時に話をつけるといい」
「おいおい、白峰って言ったのか? 八大天狗って言われている本物の? 実在するのかよ。信太師匠の人脈やべぇな。……なんだか鈴は遠いところに行っちまったなぁ。まあ、でも頑張れや」
千鶴は私の肩を叩いて激励してくれた。
「私もついている。白峰殿には私も一度、挨拶をしておきたい。挨拶をしたのは偽物の私だったからな……」
「白峰様は俊宗に恩義を感じているようでしたから喜んでもらえるでしょうね」
今度は隠し事なしで話し合うことができる。数少ない当時を知る者として会話に花を咲かせることができるだろう。
「きっと、鈴鹿サンも俊宗クンも天狗たちには歓迎されるさ。ワタシなんか『胡散臭い』と言われて白峰しか相手にしてくれないんだ。まったくひどい話さ」
私としては強く否定できないのが、正直なところだった。
正直な話、第一印象で胡散臭いと思ってしまったことは、信太師匠には内緒にしておこうと思う。
それだけ、信太師匠は私たちとは別格な何かを感じるのだ。
食堂に到着すると千鶴と俊宗が、握り飯を取に行ってくれた。
「ふぅ……お互い疲れたねぇ。あんな気を使って結界を作ったのは久しぶりだよ」
「鈴鹿御殿に千鶴が入れるような結界なんて、想像すらできない高度な術なのでしょうね。信太師匠にはお世話になるばかりです。ありがとうございました」
私は信太師匠に一礼をすると「構わないよ」と笑っていた。
しばらくすると、俊宗と千鶴が握り飯を両手一杯に持って戻ってきた。




