六十六話
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鈴鹿御殿の入り口を跨いだ。
真っ先に駆け寄ってきたのは千鶴だった。
「倒したんだな! ここに来たってことはそうだよな?」
「えぇ。私、やりました。大嶽丸を倒しました」
「流石だ。鈴鹿サン……。本物の俊宗クンのところへ行ってあげてくれたまえ」
信太師匠に一礼をして、千鶴に頷くと私は俊宗の寝床へと走っていった。
俊宗はまだ寝ているようだったが、「うーん」と寝言を言いながら覗き込んでいるこちらの方へと寝返りをうった。
「俊宗……私、大嶽丸を一人で倒しましたよ。二人でも大変だったのに一人だと、もっと大変でした」
信太師匠と千鶴も後ろで見守っていたが俊宗はまだ目を覚まさない。
「今度は盗みもしないで良い子でいました。あなたと話したい。あなたと過ごしたい。もう私達を分つものは何も……ない」
すると俊宗はゆっくりと目を開いた。
「うーん、長い夢を見ていたみたいだ……。鈴鹿、おはよう」
私は思わず俊宗に抱きついてしまった。
「おはよう、待たせてごめなさい……俊宗」
すると俊宗は後ろにいた信太師匠と千鶴に気付いて体を起こして座った状態になった。
「私の偽物が世話になりました。鈴鹿を導いてくださり、お二人にはなんと感謝したらいいのか言葉が見つかりません」
俊宗は二人に向かって深々と頭を下げた。
「ワタシとしては二人が再会できたところを見ることができただけで満足さ。キミたちを縛るものはもう何もない。キミたちは……自由だ」
私は俊宗と顔を見合わせてしまった。俊宗の穏やかな微笑みで、私も頬が緩んだ。
「お熱いねぇ。幸せに暮らせよ……二人とも」
千鶴は私の肩を押して、私と俊宗の肩を密着させた。
「もう、千鶴ったら……」
俊宗は私の肩を抱き、二人の方を見た。
「今度こそ私が鈴鹿を幸せにしてみせる。信太清明、雨宮千鶴……二人に誓おう」
「仲人にはワタシを呼んでくれたまえ」
「気が早いです。信太師匠……。私まだ十五歳ですよ」
信太師匠は「そうだった」とご機嫌な様子で笑っていた。
俊宗は立ち上がろうとしたが、ふらついてしまい私が体を支えた。
「すまない、鈴鹿……」
近くに置いてあった黒い束帯を俊宗は着ると肩を回して「よし」と呟いた。
そして、腰に刀を差した。
「そっその刀って、やっぱり騒速なのかいっ?」
信太師匠は食い気味に刀を見つめていた。
「えぇ、そうです。式神の私は無銘の由来も知れぬ刀を使っていましたが、これは本物の騒速です。数多の妖怪を斬ってきた私の愛刀です」
「くぅーあまりにも眼福……。三明剣に加えて騒速までこの目で見ることができるなんて、長生きした甲斐があるってものだね」
信太師匠は眼鏡の奥にある目を輝かせて騒速を「抜いてみて」と俊宗にお願いをして、その美しい刀身を見ては盛り上がっていた。




