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六十五話

毎日三話更新

「あぁ……負けだ。完全に負けだ。このまま戦っても俺は負ける。だからせめて引き分けを狙わせてもらうッ!」


 大嶽丸の体内の『火』の気が一気に強まっていた。


 体が膨張して離れていても顔を背けてしまうほどの熱を感じる。


「まさか、自爆? あなた、ほんっとうに負けず嫌いなんですねッ!」


 離れた状態でこれほどの熱を感じるからには、もはや大嶽丸に触れて神足通で遠くに飛ばすこともできないだろう。


 私だけ神足通で逃げることもできない。鈴鹿御殿の入口には千鶴と信太師匠がいる。


 破壊の規模が読めない以上、ここで私が抑えきるしかない。


 すでに『水』の気で鎮めるなど焼け石に水という言葉に他ならない。


 どうする……?


 私は守りに適した五行の使い方をあまり考えたことがなかった。


 攻撃は神足通で当たらなければいい、などと思考停止していた。


 しかし、いくら考えても『火』には『水』で対抗することしか思いつかない。


 この近くにある『水』の気を集めただけでは、大嶽丸の猛烈な『火』の気にはどうやっても敵わない。




 いや、思いついた。




 この状況を打開するには、神足通が必要だ。


 大通連と小通連は通力自在の刀……。私が神足通で遠い場所に転移させられる。


 実家から秘密裏に手元においた時もそうだったではないか。


 そして、大通連と小通連は五行の気を『蓄える』ことができる。


 私は大嶽丸の『火』の気を鎮静させて余りある『水』の気が豊富な場所に、大通連と小通連を転移させた。


 見渡す限りの水、いや塩水の宝庫……海だ。


 すぐに手元に戻した大通連と小通連から『水』の気を引き出して、今にも爆発しそうな大嶽丸の頭上から滝のような水を浴びせ続けた。


「この水量……どこからッ! 負けるかぁああッー!」


 大嶽丸に浴びせかけている水が蒸発して、あたりは濃い蒸気で包まれていった。


 だが、ついに蒸気の勢いが収まった。


 呆然としていた大嶽丸の目の前に自分の足で歩いていった。


「完全に負けだ。これ以上ないくらい清々しいほどに。やれ! 鈴鹿御前」


 大嶽丸は無防備に首を晒して覚悟を決めたようだった。


「もう生き返らないでくださいね……」


 膨張し、体組織の緩んだ大嶽丸の皮膚は顕明連でも容易に斬り裂くことが出来た。


 右から左に向かって大嶽丸の首を断つ顕明連がゆっくりと見えるような錯覚をした。


 数万、数億の他の世界を生きた『わたし』の手が、顕明連を持つ私の手を押してくれているような気がした。


 光を反射して輝く顕明連の刀身に鈴鹿御殿が見えた。


 中には信太師匠と千鶴が談笑する姿があった。


 あぁ……信太師匠はやり遂げてくれたのだ。


 大嶽丸の落ちる首は満足そうであった……。だが復活させるわけにはいかないので、神足通で鈴鹿御殿の入口に転移した。

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