六十二話
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大嶽丸は刀を持ち、佇んで森を眺めていた。
「何を見ているのですか?」
「田村丸俊宗は自害したか」
私は「えぇ」と肯定すると大嶽丸は「そうか」と俯いた。
「自分の策がうまくいかずに不満でしょうね」
「そうではない。共闘してくるものだと予想していた。自害の可能性も確かに頭の隅にはあった。それでも俺はお前たちと戦いたかったのだ。この場所でもう一度戦い、勝てたのなら晴れて胸を張れるものを……」
大嶽丸とはそんなにも負けず嫌いだったのかと、思わず笑いが込み上げてきた。
「あなたは人間のように命に、そして勝利に執着するのですね」
「そうとも。俺は誰にも負けたくなかった。二度とあの虚無に戻りたくはなかった。お前たちに負けたことで、不死の完成などと宣ったがそんなもの一時の負け惜しみだ。いざ負けて復活してみれば力は全盛期に及ばない。負けても平気な策を用意していた時点で俺は負けていたのだ」
鬼という妖怪は自然発生するものと、人間がなるもの、二種類の生まれ方がある。
ただ、自然発生した鬼は鬼神に至るまで自我はなく、膨大な数の人を食らい、その末に自我を手にすると聞いたことがある。
大嶽丸は「あの虚無」と表したことから、自我を獲得した自然発生した鬼と私は読み取った。
妖怪同士の捕食競争に勝ち、人間の退治からも逃れ続け、ようやく手にした自我。
そんな奇跡のような出自ならば、我が身が大切になることにも納得がいく。
「お互い似たようなものですね。千年かけて転生してみれば顕明連を持ったか弱い少女。良い泥仕合になりそうではないですか。奇跡を手にする者の戦いとは、そんなものでよいのではないですか?」
「ふふ……はっはっは。俺たちの戦いを泥仕合と呼ぶか。その通りではないか! 興が乗ってきたぞ。さぁ、殺し合おうか。もはや、小細工の必要もない。この戦いに勝った者が生きる」
お互いがお互いを対等と認めたとわかった。
私は隠しておくべきだった大通連と小通連を収納結界から取り出し、背後に展開して右手にある顕明連を握る手には力が入った。
正々堂々とした勝負をお互いが望んでいると確信したからだ。
私は自分の足で一歩、また一歩と間合いを詰めて次第に駆け足になっていった。
振り切った刀同士がぶつかり、心地の良い金属音を奏でた。
的の大きな大嶽丸を相手に私は小柄で小回りの利く有利さで攻めていった。
お互いに手の内は生前の戦いで割れている。
私は大嶽丸の理屈も何もない圧倒的な力による攻撃を警戒していた。
そして大嶽丸もまた、大通連、小通連の五行による攻撃を警戒していた。
顕明連で斬りつけても大嶽丸の肉体にはかすり傷を与える程度だった。
大嶽丸は顕明連の攻撃を時には受けてでも大通連と小通連の動きから目を離さずに注視していた。
「まったく、全盛期には及ばないだなんて……相変わらず堅い体をしていますねッ」
思い切り踏み込んで渾身の力で腕を斬りにかかると、大嶽丸は流石に刀で受けた。




