五十七話
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私の方を見ていた鬼神は大竹の方を向いて歩いていった。
すると鬼神は自らの胸を抉り、大竹に自らの心臓を献上して息絶えた。
大竹は心臓を丸飲みにすると、みるみる姿を変えていった。
ねじれた二本の角、式神以上に筋肉のみなぎった一回り大きな赤黒い体となった。
生前に見た大嶽丸の姿そのものだった。
ここで俊宗は私の隣に並び立ち刀を構えた。
「そろそろ、本番だろう。私も出る」
私には俊宗の抵抗力がいつ途切れるのか心配で気が気ではなかった。
それでも、戦うしかない。
大嶽丸は地面に転がっていた槍を蹴り上げると手に持ち構えた。
式神の俊宗が走り出し、私もそれに追従して二人同時の攻撃を仕掛けた。
大嶽丸は私の顕明連は槍で受けて防御していたが、俊宗の刀はまったく気にかけていない様子だった。
式神の俊宗の刀は大嶽丸の体を斬ってもかすり傷程度しか与えることができていなかったことには大嶽丸の抑制が働いているとしか考えられなかった。
「腕が落ちたな田村丸俊宗。お前はもっと恐るべき武士だったはずだぞ」
「そうか……油断を誘えたのなら好都合だ……はぁッ!」
式神の俊宗が渾身の力で振るった一撃は大嶽丸の左腕に深々と傷を与えた。
「くそ……往生際の悪いやつめッ」
「ふふ。あなたがそれをいいますか……。同じ言葉を返しますよ」
私も顕明連を振り切ると大嶽丸は槍で受けつつも一歩、後退した。
式神の俊宗の体内の五行が輝きを増していた。
間違いない、俊宗の抵抗力がここにきて強くなっている。
「鈴鹿! 神足連通を頼む」
「わかりました。覚悟してくださいね大嶽丸。」
攻撃能力の優れる俊宗の移動を、私の神足通で補助しながらの同時攻撃を大嶽丸に仕掛けた。
だが大嶽丸も流石に守りに徹すれば堅い。
裏を取ろうが、上を取ろうが全て捌かれてしまう。
攻めきれない……。
「わかった……わかったぞ。俺がしなくてはいけないことは、お前たちの攻撃を受けきることなんかじゃなかった。こうすれば戦いは決まる」
大嶽丸は札を取り出して念じると、式神の俊宗の動きがぴたりと止まってしまった。
「……俊宗? どうしたの?」
いや、わかってしまった。急激に体内の五行の輝きが弱くなっていた。攻めることに抵抗力を使ってしまったのが良くなかった。
式神の俊宗は私の方へゆっくりと振り向くと「大丈夫だ」と呟いて笑顔を見せ、そのまま私に斬りかかってきた。
覚悟していなければ、反応することができなかっただろう。
「大嶽丸……。俊宗を操り人形にするなんて、私はお前を許さない」
今までの稽古とは違う、お互いに真剣での斬り合いに私は生前のことを思い出してしまっていた。
式神の俊宗の剣術は顕明連と神足通だけで簡単に捌けてしまう。
次第に怒りが込み上げてきた。まるで大雨で氾濫する川のように全てを飲み込もうとしていた。
「俊宗の剣術は……俊宗の強さはッ! 断じてこの程度ではないッ」
大嶽丸を見ると不敵な笑みを浮かべていて、私は顕明連を握る右手に力が入った。
私は周囲の五行を取り込み循環させて、体力を回復、向上させて一気に攻勢を仕掛けた。連撃に耐えかねた式神の俊宗は刀を弾き飛ばされ地面へと転倒した。
情けなく転倒する姿さえも、私の中で氾濫する川になおも大雨となって水を注ぐことにしかならなかった。
「どうしたんだ鈴鹿? そんなに怒って……。私を殺そうとしているみたいじゃないか」
式神の俊宗に向けた顕明連の切っ先は震え始めた。
「だってあなたは偽物なのだから……私はあなたを斬ることでしか救えないッ」
「偽物ってなんだ? 私は私じゃないか……落ち着いてくれ」
だめだ。
心が晴れてしまう。雨が止む。だって俊宗は私にとって太陽みたいな存在だから……。
退屈で憤りに満ちた私の人生に陽の光をくれた。
いくら目の前にいる俊宗が偽物と否定しようとも、言葉を交わしてしまったら覚悟は崩れ落ちてしまった。
斬らなくてはいけない瞬間になって、やっと信太師匠の言葉の重みを理解した。
構えが緩み、気持ちすら揺らいだ瞬間だった。
大嶽丸の槍が私の心臓に迫るのがわかった。だが、反応が遅れた。
また、私は…………




