五十五話
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「おかえりなさい。今日も遅くまで大変でしたね」
「ほんとに、いっつも遅くまでやること多くて大変すぎる。博士とか、あんなめんどくさいこと日常的にやってるのかよぉ」
千鶴は部屋に入るなり大の字で横になってしまった。
五行の循環による疲労の回復は他人に対しても行うことができることを思い出した。
私は千鶴の腹に手をかざすと凝り固まった五行を流していった。
「お! おぉ? おー! なんか体が楽になってきたぞ。何をしたんだ?」
「体の中の五行が凝り固まっていたから流れを整えたのです」
「鈴は神通力ってやつはいろいろできて便利だな。あたしも覚えたいくらいだ」
厳密には神通力というより五行操作に分類される力の行使だったけれど、千鶴の調子が良くなったのならそれでいい。
「私は明日、大竹と決着をつけます。鈴鹿御前として……」
「そうか、やるんだな。聞いてんだろ大竹。鈴が決着をご所望だ。逃げるなよ?」
千鶴が天井に向かって強く言葉を放つのが聞いていて嬉しくなった。
私が勝つと千鶴は信じてくれている。
「相手は大竹の鬼神だ……あたしなんかが割り込める余地はなさそうだが、やれることがあったなら力になるぞ。式神用の刀なんかももらってあるしな」
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておきます。なるべく、自分だけで決着をつけますから安心して待っていてください」
千鶴は「そうか」と不敵に笑うと日課になった書物の暗記を始めた。
一斉に周囲の監視用の式神たちが消滅したのが、五行の気配でわかった。
大竹は間違いなく私の宣戦布告を聞き届けた。
「私はもう寝ます。決戦の地は鈴鹿山です。この辺りで戦って他人は巻き込んだりしないので安心してくださいね。まぁ大竹の方は、どう思っているか知りませんけど」
「自信がなけりゃ寝てる間に攻めてくるかもな。はっはっは」
私も笑いながら横になり布団をかけて眠りについた。
ふと、ゴトッという音で目を覚ました。朝日が昇り始めた頃だった。
外には一体の式神の気配。そして『火』の気が線状に動いているのを感じた。
『火』の気が向かう先は丸い『土』の気の塊だった。
その瞬間、私は外に爆薬が仕掛けられたと確信して、寝ている千鶴に触れた。
神足通で食堂の近くに転移すると間もなく爆発音が早朝の夜行寮に響き渡った。
千鶴は飛び起きて辺りを見回していた。
「な、なんだいきなり! 何の音だ?」
「大竹の奴は私たちの寮部屋を爆破したようです。余裕のないことです。そんなことをするなんて余程自分の力に自信がないのでしょう。千鶴は隠れていてください」
私は鈴鹿御殿にある赤の十二単を呼び寄せると即座に身に纏った。
見た目に反して、重さを感じないのは夢で着ていた時と同じだ。
「鈴……綺麗…………いや、勝ってこい!」
「いってきます」
踵を返し、千鶴に背を向けると顕明連を抜いた。




