五十一話
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外はまだ明るく、そんなに時間経過を感じなかった。
鈴鹿山の森の中で私は深呼吸をした。
人の手が入っていないからか、平安の頃にいるような錯覚をしてしまう。
決戦の地は鈴鹿山だ。
大嶽丸を倒した直後に私はこの世界から隔絶された異空間である鈴鹿御殿に逃げ込まないといけないからだ。
次に大嶽丸を倒すのは私であり、殺した瞬間に新しく縁ができてしまう。
死んだ時に縁のある者がいなければ大嶽丸は復活しないはずだ。
私は神足通を使い、信太師匠の結界屋敷に戻った。
すると、式神の俊宗が床にうつぶせになって倒れていた。
「あぁ、坂田サン。随分早く戻ってきたね。もう少しゆっくりしてくればよかったのに」
「まさか、式神さん……」
私が駆け寄ると式神の俊宗は「うぅ」と唸ってため息をついた。
「信太師匠の近接戦闘があそこまで強いなんて……予想外だった」
「いやぁ、式神クンに褒めてもらえるなんて、嬉しいかぎりだ」
信太師匠は式神の弱体化した俊宗を全くの無傷で一方的に勝ったように見える。
「少しはしゃぎすぎたみたいです。食事をしてきますので地上へ下ろしてくれますか?」
信太師匠は「わかった」と言って結界乗り物を用意した。
私は式神の俊宗についていこうとしたが、信太師匠に呼び止められた。
「少し坂田クンと話しがあるから、式神クンは先に行ってくれたまえ」
そうして、結界乗り物には式神の俊宗だけが乗って降りていった。
「ふぅ。ようやく『邪魔者』がいなくなったね。迷いなく鈴鹿山に転移したってことは、もう自分の正体に気付いているのかな? 坂田クン、いや鈴鹿御前」
そうだった。信太師匠は全国に探知結界を敷き詰めているから、特定の人物の居場所はどこにいるか把握できるのだった。
「全てお見通しですか。信太師匠は怖いお方ですね」
「式神クンは本当に田村丸俊宗なのかい? 模擬戦をしてみたけれど伝説に名を残すほどの英雄とは、かけ離れた実力で拍子抜けだったよ」
「あれは、俊宗の命の一部を吸収した大嶽丸の式神です。大竹は私が召喚したように演出をして、私を監視や行動の制御に利用していたようです」
信太師匠は「だろうね」と納得した様子だった。
「初めて君と式神クンのことを見たときから、君が呼び出した式神ではないんじゃないかという疑惑は強かったんだ。君は五行を身に宿していないから、式神を召喚するなんてことはできないはずだからね」
「天狗でもないのに五行認識ができるなんて流石ですね」
「君たちみたいに直接見ることはできないけれど、まぁ、そこは説明すると長くなってしまうかな」
直接見ずに五行を感知するを思いつくなど、やはり信太師匠は私の理解をいつも超えてくる、恐ろしくも感心するべき師匠だ。
「そういえば……最初に三者面談をしたときに君と俊宗クンを脅かしたただろう? 実はあの時にワタシの圧力で大竹と式神の接続を切ってみたんだ」
私は思わず「え?」と聞き返してしまった。
接続が切れた式神は動かなくなるはずだからだ。
「ワタシは、てっきり式神クンは動かなくなると思っていた。だけど、田村丸俊宗の意識だけが残り『守る意思』を伝えてきた。だから、ワタシは様子を見ることにしたんだ。ワタシの結界屋敷を出たら、再度接続されてしまっただろうけどね」
「では、あの時の俊宗だけは本物……」
信太師匠は頷いて肯定した。
千鶴が予想した俊宗本人が抵抗しているという説を思い出した。
(俊宗も戦っている……)




