四十六話
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「天啓がありました。もうやめたこととはいえ、盗みの罪は問われるようです。……私は、閻魔大王より二十五歳で死ぬ運命を与えられました」
「そんな、まさかッ。地獄に行って撤回してもらえるように頼んでくる」
それは即答だった。当時は確かに地獄へは黄泉比良坂から地続きで向かうことができた。
鈴鹿御前である私は第六天魔王の娘で神に分類される存在だったので、地獄に行くことができたのは人間である俊宗だけだ。
「そんなことをしたら俊宗が死後に地獄行きになってしまいます」
「大丈夫だ。大人しくお願いするだけにしておく」
そう言って、俊宗は鈴鹿山を去って地獄へと向かっていった。
地獄は地中にある場所なのだが、その内部は地中とは思えない明るさであった。
消えることのない炎がいたるところで煌々と燃え上がっていて、罪人が放り込まれては炎の勢いは増していた。
絶えず聞こえる責め苦を受ける罪人たちの絶叫は、聞いているこちらも気が狂うようなおぞましいものだった。
そんな場所を俊宗はきょろきょろと辺りを見渡しながら閻魔大王がいる場所を探しているようだった。
当然、俊宗を見つけた獄卒の鬼たちが俊宗を追い返そうと立ちはだかった。
俊宗の身長の三倍はある鬼は巨大な金棒を手に威圧感を強めるが、俊宗は爽やかな顔で獄卒の鬼に向かって話しかけた。
「閻魔大王に会って話したいことがあるのだが、通してくれないだろうか」
「そんなこと許されるわけがないだろう!」
俊宗は残念そうに肩を落とす「なら、しょうがない」と呟き刀を抜いた。
刀を抜いた俊宗に獄卒の鬼は金棒を振り下ろすが、あまりに俊敏な動きで難なくかわし獄卒の鬼の大きな足を斬り落とした。
生前一度だって勝つことができなかった俊宗の無駄のない剣術は過去の中では健在だ。
「獄卒も地獄では死んだりしないのだろう? しばらく寝ていてくれ」
俊宗はその後も向かってくる獄卒の鬼を次々と斬っては、一際豪華な建物に入った。
赤の絨毯がまっすぐ道を作っていて、天井が高く白い石柱がそびえ立っている。
そして赤い絨毯の先の玉座に閻魔大王が鎮座していた。
黒い狩衣に近い装束を着ていたが、身長が俊宗の五倍はある。
俊宗は閻魔大王に鈴鹿御前が更生し、世直しを計画していることを訴えた。
「鈴鹿御前は第六天魔王の娘である。そのように力のあるものが一時とはいえ盗みなどという行いをした罪は拭えない」
閻魔大王は重々しい声で宣言するが、俊宗は大きなため息を吐いた。
「もし、閻魔様が鈴鹿の二十五歳で死ぬ運命を撤回しないのなら、私にも考えがあります。これから毎日、獄卒を斬りに通ってみせましょう。閻魔様が撤回していただけるまで」
どこが『大人しくお願いするだけ』なんだ、と思わず私は呆れてしまった。




