四十五話
毎日三話更新
翌日、俊宗は再び鈴鹿御殿に都の地図を持って赴いた。
鈴鹿御前は細かく書き込みがされた地図に驚いていた。
「まさか、貧困者の性別、年齢、必要援助がまとめてあるなんて……配下の者が協力的でよい関係を持っているのですね」
「いや……配下に手伝ってもらったわけではないんだ。貧しい者と親しくすることを内裏では好ましく見られない。配下を守るために全て自分一人の責任のもと行っていることにすぎないのだ。人助けをするだけでそんな風評を受けるなど受け入れ難いがな……」
俊宗は眉間にしわを作り、心底不服そうにしていた。
鈴鹿御前も「そうですね」と視線を落とした。
「まぁ、今はできることをしよう。適切な配布ができるように地区の分担を決めようか」
俊宗と鈴鹿御前は地図を囲んで指をさしては、お互いに提案をしていった。
「この地区には生まれたばかりの子供がいる。食べ物は多く届ける必要があるな」
「近くにある、この空き家を配布拠点にしてしまうのはどうでしょうか? 私が直接その空き家に食べ物を転移させて、俊宗は現地で配るというやり方はどうでしょう」
「そうするか。空き家に人が入らないように私が近隣住民に声をかけておこう」
俊宗が現地の様子に詳しいため、適切な支援を二人は次々と決めていった。
すると、鈴鹿御前は何かを思い出したようで、地図から俊宗へと視線を移していった。
「そういえば……病が流行する兆候などはありますか? 手当するだけで大抵の病は治せてしまうので、その時はぜひ支援をさせてください」
「今は、大流行の予兆はないが覚えておこう。……この地区に悲田院という区画があって病人や困窮者などが集められている。一度、様子を見てもらった方がいいかもしれない」
俊宗は地図にある悲田院の区画を指さしていた。
「さすが俊宗。そんな施設があったなんて私だけでは辿り着くことができなかったでしょうね。病人を治すことくらいは許されるでしょう。雨を降らすことは許されませんでしたけどね……」
「そうか、天狗は許してくれなかったか。……やれることをやっていこう」
俊宗と鈴鹿御前の前にやるべきことは山のようにあったが、二人ともやりがいを感じて楽しんでいるようにも見えた。
「俊宗と考えたこと……続けることができれば都の民は救われる者が多いでしょうね」
「そうだな……世を大きく変えることが難しくても、小さく続けることも必要なだと私は信じている。ついてきてくれるか? 鈴鹿……」
「はい。私は命尽きるまで、あなたと共に歩みますから」
俊宗と鈴鹿御前は手を取り合い、睦まじく微笑み合った。
満足できない不満の多い状況であることはわかっていた。
世直しの道は、果てしなく終わりのない道だ。支える者がいなくては進めない道だ。
鈴鹿御前は独りで進もうとして、道を間違えた。
俊宗は独りで進もうとして、道を進めなかった。
そうして俊宗は何度も鈴鹿山に来ては次第に親しい間柄になっていった。
打ち合いをしてはお互いを高め、世をよりよくする方法を語り合った。
俊宗にはまったく勝てずに打ち合いでは軽くあしらわれていたけれど……。
理不尽な世を憂う同じ志を持つ者が少ないとお互いに感じていたからか、親しくなるのは当然のように思えた。
食べ物の配布は試行錯誤を繰り返し、結局は俊宗が直接手渡しをして回るという方法に行きついた。
俊宗は鈴鹿御前の身分を隠して悲田院の職員として紛れ込ませて、何人もの病人を救うことに成功していた。
そろそろ大きな挑戦をしようと俊宗が考えていた頃だった。鈴鹿御前は浮かない顔をして、俊宗を迎えた。




