四十四話
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すっかり夜になり暗くなり始める頃に両脇の大根を配り終えた。
すると残りの大根が台車ごと盗まれていることに俊宗は気付いた。
俊宗は「ふっ」と鼻で笑うと台車の轍のあとを辿って、俊宗は盗人らしき五人の男性を見つけた。
「なぁ、お前たち。その大根を持っていくのは構わないが台車は返しもらっていいか?」
「なっ! 検非違使か?」
一人の口髭を生やした男性が短刀を俊宗に向けて警戒していた。
俊宗は両手を挙げて敵意がないことを示して台車に向かって歩いていった。
「大根は始めから配るつもりで持ってきた。検非違使にも言わないと約束しよう。家族がいるのなら家族と分け合え。いないのなら、お前たちで分け合え。決して誰も独占するな。じゃあ、台車は返してもらうからな」
盗人たちは予想外の対応に小言で話し合い、一人が意を決して俊宗を始末するべく走っていった。
俊宗は背後から迫る短刀に容易く反応すると、躱した流れで短刀を取り上げた。
奪った短刀を地面に押し付けて、足で踏みつけて真ん中から折ってしまった。
「まったく。検非違使には言わないと約束しただろう。うーん。何をしたらお前たちは私を信じてくれるんだ? やはり、台車もいるか?」
(俊宗が善人すぎて話が通じてないんだ……)
「お前が俺たちを見逃す理由がわかんねぇんだよッ」
「今日は余った大根を皆に配っていたのだ。だから、その大根はお前たちに持っていかれようとも私は盗まれたとは思わない」
「ありえない。そんなことをする貴族がいるわけがない」
「…………。ここから西にある貧民区画に住む、虎松という老人を知っているか? 知っているようだな。田村丸俊宗という男が何をしに来たか確認してくるがいい。安心しろ。お前たち全員が納得するまで、私は帰らないさ」
俊宗は台車に座り待つつもりのようだ。
盗人たちは話し合いの末、一人を確認に送ることにしたようだ。
しばらくして盗人の一人が戻ってきて、仲間に状況を説明していた。
すると盗賊の五人は俊宗に近づき、一斉に頭を下げた。
「俺が間違っていた! あんたみたいな貴族もいるなら世も捨てたもんじゃねえ。非礼を詫びる。すまなかった」
「虎松老人に叱られたようだな」
確認に行った盗賊の顔には真新しいあざができていた。
「あぁ。あの方を疑うとは何事だ! と、あんたがしてくれた数々の助けを教えてくれた。そんな問答をしている間に近くにいた他の人も助けられたと声が上がった。あんたは本物に違いない。だから皆、納得した」
(こうやって一人一人、馬鹿がつくほど真面目に向き合っていたんだ……俊宗らしい)
「本来はお前たちが盗みなどしなくても暮らせるようにするのが、為政者の役割なのだ。今はうまくいっていないかもしれない。すぐには変えられないかもしれないが、変えてみせる。だから待っていて欲しい」
盗人たちは「あぁ」と俊宗に期待の眼差しを向けて、その背中を見送っていた。




