四十三話
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「まさか、雨を降らしたのか……?」
「はい。ただ、この力を行使できるのは、この御殿の中だけなのです。恒常的に外でこの力を行使するには『水』の気を司る天狗の許可が必要なのです。許可さえ頂ければ、年貢を納める民を干ばつによる凶作を守ることができるでしょう」
「すごいなっ! まさに神のような力だ。許可が取れるといいな」
「それが……望み薄なんです。一度、交渉したことがあるのですが断られているのです。『水』の気を司る天狗は気難しい方でした。改めてお願いしてみようと思います」
「何故、天狗は許可を出してくれないのだ? 凶作が減れば民が救われる。天狗は人々の味方ではないのか?」
「その天狗の思想では誰の味方もしない、自然のあるがままを重視する方という印象を持ちました」
私に神通力を教えてくれた白峰天狗は友好的な印象だったが、それは元人間の天狗だったからだ。『水』の気を司る天狗は元来の天狗で思想は荒ぶる神に近いものだった。
「もし許可が下りなかったら、この畑で余った野菜を困窮している民に配るのはどうだろうか?」
「それはもうやっていることなのです。しかし俊宗の手も加われば、より多くの民に届けることができるかもしれませんね」
俊宗はできることがあって、やる気に満ちている様子だった。
「何か収穫できるものはあるだろうか?」
「もちろん。あの辺りは、もう食べ頃でしょう。一緒に収穫しますか」
十二単を着た鈴鹿御前と狩衣を着た俊宗という、畑作業など到底しないような恰好をしている二人は大根を次々と収穫していった。
(なんで一緒に同じ作業をすると、あんなにも仲良くなった感じがするんだろう)
二十本近く収穫して山積みになった大根を二人は見て満足気にしていた。
「困窮していて、優先的に配るべき場所は把握してある。責任を持って届けよう。しかし、この量は一度に持ちきれないか……」
「あぁ、それに関しては安心してください」
鈴鹿御前は大根の一本に触れると神足通を使い転移させて見せた。
「なるほど、神通力で転移させられるのか。それなら、あれだけ収穫しても問題ないな」
「帰りは、神通力で俊宗のことを送ります。あとから大根を送りますから台車にでも乗せて配ってもらえますか?」
「任せておけ。次に会う時は、配る地区の分担を決めよう。今日は、あの大根を早く民に届けたい」
「わかりました。今日はここまでにしておきましょうか。では手を……」
鈴鹿御前は差し出された手を握ると神足通で転移させて都へと帰した。
俊宗は長距離を一瞬で転移して思わず「おぉ」という感嘆の声を呟くと、自分の屋敷の倉庫へと歩き出した。
次々と大根が転移してきていて、二十本全てが届くと俊宗は台車に乗せて屋敷から駆け出し庶民の暮らす区画へと向かっていった。
俊宗は庶民からも信頼されているようで、すれ違う人々の多くが挨拶をしていた。
台車を止めると両脇に大根を抱えながら、俊宗は家を回って配り始めた。
子供だろうが老人だろうが分け隔たりもなく一人一人に目線を合わせ、暮らしぶりを聞いては政の落ち度を詫びて頭を下げていた。
(俊宗……聖人か何かなのかな)
さながら俊宗は善き世から迷い込んだ異邦人のように異質な存在であった。




