四十二話
毎日三話更新
「善き世の中……ですか。私なんかは特権階級への憤りの気持ちが強かったので彼らをどう改心させるかを考えてしまいます」
「彼らすらも救わなくてはいけないと私は考える。民が納得して年貢を納めて、政の恩恵を受ける。為政者は徴収した年貢に相応しい政を行って、然るべき報酬を受け取る。皆が対価と報酬を等しく受け取り合う……これこそが私の考える善き世の中だ」
鈴鹿御前はじーっと俊宗のことを見つめて、ため息をついた。
「ん? どうした?」
「何が『難しいことは考えるのが苦手』ですか。きっちりと原因の本質を掴めているではありませんか?」
「だが、どうやって解決すればいいのかわからない」
首をすくめる俊宗に「たしかに……」と鈴鹿御前は考えこんでしまった。
俊宗の考える善き世の中は理想ではあるが、現実的ではない。
多くの人間はそんなにも善良ではなく、利己的であるのは世の常である。
「……方法を探すのも、実現させるのも時間のかかることでしょうね……」
「そうだな。まぁ、人間も流石に千年くらいしたら学んで善き世の中に勝手になってしまうかもしれないがな」
残念ながら、俊宗の期待も虚しく千年先の未来でも、相変わらず為政者は利己的で善き世の中とは程遠い世界だ。
百年近く前には税の取りすぎなど不満が膨れ上がり、島原の乱という大きな農民の一揆があったと聞く。
「そうなったら、いいですね」
鈴鹿御前は私を通じて千年先の未来を知っているからなのか、俊宗の期待を肯定しつつも視線を落としていた。
「ところで……君は仙女などと名乗ったり、不可思議な術を使うなどと聞いていたのだが、ただの人間ではないのだろうか?」
「そうですね。第六天魔王という神の子です。生まれた時から、この見た目で老いることのない身です。やはり人外というのは気味が悪いですか?」
「いいや、そんなことは断じてない。都で権力闘争に夢中になっている輩の方がよっぽど気味が悪い。私は世の理不尽に憤ることができる君の方が人間らしいと思うぞ」
(あー、私……照れてる。あれは隠しきれてない)
「そんな褒められても酒のつまみしか出てきませんよ」
「つまみが出るだけありがたい」
鈴鹿御前は微笑むと、切り分けてあった桃を持って俊宗の口へと持っていった。
俊宗は躊躇なく鈴鹿御前の手から桃を食べて「うまいっ」と笑っていた。
(子供のような屈託のない笑顔……)
私は、あの笑顔が好きだった。
式神の俊宗では見ることができない。きっと、いつだって気を張っているから。
「……すぐに大きく世の中を変えることはできないと思うのです。なので小さいことから私は始めようと思います」
「何か考えがあるのか?」
鈴鹿御前は「えぇ」と肯定すると俊宗の手を取って神足通で転移した。
「おっ! なんだ急に畑の前に来たのか? それが不可思議な術というやつか?」
私の視点も鈴鹿御前の神足通に伴って移動した。
畑には青々とした野菜が埋まっていて周りには、リンゴや桃などの果実をつけた木が囲んでいた。
「私は神通力という力を使えるのです。空間転移のようなものですね。それだけではありません」
鈴鹿御前は空を仰ぎ、手をかざすと雨が降ってきた。




