四十話
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俊宗は束帯を着た位の高そうな男性に跪いていた。
「昨今、年貢の徴収を妨害する盗賊の正体が明らかになった。立烏帽子が特徴的で、名を鈴鹿御前といい、自らを仙女と言って不可解な術を使うという。そなたには討伐を命じる。奴は鈴鹿山に隠れ住んでいるらしい」
「はっ。準備を整え次第、すみやかに討伐に向かいます」
そうだった。あの頃の私は盗賊をしていたのだった。
神足通を使った盗みなど誰一人として対処できる者が皆無で好き放題していた。
俊宗は自分の屋敷に戻り、私の見慣れた重装備の鎧を身に纏い、供の者を十人ほど引き連れ馬に乗り鈴鹿山に向かっていった。
「こんな山奥に盗賊が潜んでいるなんて信じがたいな。しかも立烏帽子の女だろう?」
移動の途中、俊宗の連れていた配下の一人が半笑いで訝しんだ。
「凶作の年に普段と変わらない年貢を要求されたら、取り返そうと反発する民が発生することなど、火を見るよりも明らかだ。何故、上に立つ者は民のことを軽視するのだ……我らが良い暮らしをできるのは民から搾取しているからだということに何故気付けないのだ。私がおかしいのか……?」
「俊宗様、お気持ちはわかりますが都でそのような発言はなさらないでくださいね。寛大な俊宗様の御心を理解できるような者など時代が進まないと現れませんよ……残念ですが。とにかく手早く見つけて成敗してしまいましょう」
江戸の時代になっても寛大な為政者など現れたとは聞かない。
そもそも上に立つ者など、いつの時代でも自分勝手なものだと呆れてしまった。
「すまない。気を遣わせてしまった。……盗賊の方は確かに半信半疑だが、山の中を探すことは危険が伴う。各自警戒を怠らないようにせよ」
俊宗が気の緩みを引き締め直すと配下たちは「はっ」と返事をして表情を変えた。
すると俊宗の一行は鈴鹿山に到着し鈴鹿御前の捜索を開始した。
俊宗は警戒しながら森の中を見回しながら奥に進んでいった。
何もかも懐かしい鈴鹿山の山中だ。
(今はどうなっているだろうか……)
俊宗は整備もされていない獣道を、草木をかき分けて進んでいった。
小川を飛び越えて、岩壁をよじ登り俊宗は鈴鹿山の奥へ奥へと進んでいく。
ただの人間の盗賊を捜索するならば、俊宗もここまで山の奥まで進むことはなかったかもしれない。
だけど、鈴鹿御前は人前で堂々と神足通を使い、自分がただの人間ではないことを強調し、自らの隠れ場所まで明かしながら年貢を盗んでいた。
まるで強き者を呼び寄せるためかのように。
すると、俊宗は山の岩肌の割れ目から神々しい光が漏れ出ている場所を発見した。
俊宗はその光に導かれるように中へと入っていった。
ついに、俊宗は私がいるはずの鈴鹿御殿へと迷い込んだ。
庭には滝が流れこみ池を作り出していた。紅白の錦鯉が優雅に池を泳いでいて、あまりに池の透明度が高いせいか錦鯉が宙を浮いているようだった。
一方で、御殿の足元は雲間縁や高麗縁の畳が敷かれ、柱や梁は紅に染められた木材が余すことなく使われている。
清流の流れる風流な水音、ところどころで焚かれる香は煙を立ち上らせ品のある甘い香りが香る。
視界と聴覚と嗅覚の全てを満足させる完璧な御殿と言っても差し支えない。
そんな絢爛な御殿を進んでいく俊宗は、一人の女性が座って琴を弾いていることに気付き、近づいていった。
「お前が鈴鹿御前か?」
俊宗が鈴鹿に問いかけると振り返った。




