四話
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「では、鈴。この三本の刀から一振り選びなさい。この中で顕明連という銘の刀を選んでしまうと、あなたは追放になります」
(それだけ……?)
思わず口に出しそうになったが、厳粛な雰囲気だったので「はい」とだけ返事をしておいた。
母は私に座るように促し、私は三本の刀に注視して観察してみた。
刀身のみで鍔がない状態は共通していて、それぞれ柄には布が巻き付けられていて銘がわからないようになっていた。
長さは三本で異なり、刃文も全てで違う形をしていた。
普通に考えれば、三分の一で追放。
だけど母さんの言っていた『運では決まらない』という言葉から、その三分の一が千年出ていないのだろう。
「柄の布を取らなければ手に取って見てもいいのよ」
三本の刀と睨めっこしていた私を見かねたのか母は助言をくれた。
私は頷いて一番短い刀を手に取り刀身を観察してみた。
(でも、見ただけで何かわかるのかどうか……)
三本の中では一番短いとはいえ、分類で言えば打刀に相当するだろう。
朝日に反射させてみたりするなどしてみたが特別な何かを感じることはなかった。
同様に中くらいの長さの刀も同じように観察してみても感じることはなかった。
だが一番長い刀を手に取った時、違和感があった。
一番長いはずなのに一番軽く、手に馴染む感触がした。
(何この感じ……懐かしさ?)
まるで幼少の頃から、この刀を振って鍛錬をしてきたような錯覚を覚えた。
そして、刀身が朝日の光を受けて煌めいた瞬間だった。
夢で見た御殿の光景が細い刀身に写っていた。
角度を変えるとすぐに見えなくなってしまったが、この一振りだけ明らかに手応えがあって他とは違う何かがあるような気がする。
それこそ『運命』を感じてしまうほどに。
(おそらくは一番長い、この刀が顕明連だ)
これを選んだら追放されてしまう。
でも、自分に嘘をつけない。家を追放されようとも、夢の謎を知りたい。
ふと母を見ると、かすかに首を左右に振り『選んではいけない』と言いたげだった。
今まで母の言いなりになって過ごしてきた『無難』な生活が走馬灯のように思い出しては消えていった。
そして大きく一歩を踏み出した。
「私はこの刀を選びます」
初めての親への反抗だった。
母は「わかりました」と言って刀を受け取ると柄に巻いてあった布を取っていった。
母さんは私のことをじっと見つめていた。
「あなたが選んだのは顕明連。この家を追放とします」
父は焦った表情で私と母さんの間に割って入った。
「ちょ、ちょっと待った! いいのかッ? こんな儀式、子供が悪く育たないようにする口実だったんじゃないのか?」
追放という千年出ていなかった結果に父さんはこの部屋にいる誰よりも動揺していた。
「あなたも陰陽師の端くれなのだから、お遊びでこんな儀式を千年続けてきたなんて本気で思ってないでしょう? これは鈴の運命なの」
母さんは父さんをたしなめるように言い聞かせ、父を納得させて黙らせた。
「今までお世話になりました。私は知りたいのです。夢の続きを……」
私は両親に頭を下げた。顔を上げると両親は対照的な顔をしていた。
父さんは未だに信じきれない焦燥とした表情をしていたが、母さんは私の覚悟に報いるつもりなのか毅然とした表情をしていた。
「それでは今日中に身支度を済ませなさい。あなたには夜行寮に預けることとします。それから、時が来るまでは今後も坂田鈴と名乗るように」
「わかりました。じゃあ、身支度をしてきます」
母の言った『時が来るまで』という言葉が何か引っかかる。
だが、坂田の姓を名乗り続けられるのも、鈴を名乗りづけられるのも意外だった。
私は重々しい十二単を引きずりながら、自分の部屋に戻ってった。