三十六話
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私は自力で身を守れることを確信して、信太師匠の結界屋敷を出て寮部屋に戻った。
日も暮れた頃に雨宮さんが戻ってきて部屋に入るなり、こちらに駆け寄ってきた。
「『一日帰らない』って伝言は聞いたが……何があったんだ? 心配したぞ」
雨宮さんには信太師匠から伝言をしてもらっていた。
「師匠の友人から陰陽術を使えない私に、神通力を習得する特訓をしてもらいました」
「神通力だって! 天狗が使うっていうアレか。っていうことは鈴の師匠は天狗を連れてきたってことかよ。まじで何者なんだあの人……」
雨宮さんが驚くのも無理はない。自分の正体を知った上で考えても信太師匠の力量は私を遥かに上回る別格の存在なのは間違いない。
初めて五行を感じた時、俊宗の体内には弱弱しい光だったのに対し、信太師匠の体内の五行は全てが激しい奔流で無尽蔵に湧き出ていた。
だけど、流石に雨宮さんに信太師匠の正体を明らかにするのは、まだ早そうだ。
「天狗は本当に山伏姿で黒い翼を生やしていましたよ」
「へぇ、やっぱりそうなのか。なぁ……覚えた神通力で、あたしに見せられるものあるか? 滅多に見られるもんじゃねえだろ? 少しばかり見たいって気持ちがあるんだ」
何を見せようかと考えたが、無難に神足通を見せようと思った。
「それじゃあ、私に背中を向けて……いきますよ。はい!」
雨宮さんの正面に向かって神足通で正面に転移して見せた。
「おぉ! すげぇ! 後ろにいたのに目の前に転移したのか」
「神足通っていうんですって。移動に便利そうですよね」
「便利って話どころじゃねえって! やっぱり鈴は常人の枠には収まらない奴だと思ってたんだよ」
私の肩をぱしぱし叩く雨宮さんは上機嫌だった。
ふと、もう一つ見せたいものを思いついた。
私は顕明連を手に取り、三度振ると雨宮さんを夢に出てくる御殿に招いた。
「お? どこかに転移したのか? こんな豪華な御殿見たことねぇぞ」
雨宮さんは私のことを忘れたかのように回りを見回しては驚いていた。
「これは神通力じゃないの。この刀、顕明連の権能。あなたには私の正体を知って欲しくて。雨宮さん……いいえ私は親愛を込めて千鶴とそろそろ呼びたいかもしれません」
「ん? どういうことだ?」
千鶴は後ろに立っていた私を見て口を開けて驚いていた。
私が赤い十二単を着て後ろに立っていたからだ。
「鈴……なのか?」
「私は……鈴鹿山の天女、鈴鹿御前の生まれ変わりでした。式神さんの正体は平安京の大英雄、田村丸俊宗」
「鈴鹿御前に田村丸俊宗だと……。伝説級の人物じゃねえか。だけど、まぁ……言われてみると納得だ」
私は千鶴の隣に並ぶと池を指さした。
「この池を見てください」
千鶴は言われた通りに池を覗きこむと一滴が落ちて池に波紋を作った。
そして、千鶴に平行世界の情報量が流れ込み、ふらついたところを抱き寄せて座らせてあげた。
「今、見たのはなんだ? いろんな生き方をした、あたし……」
「そう、私の持っている顕明連は平行世界を覗く権能を持った刀です。私は自分の正体を知ってから千鶴にお礼が言いたかったのです」




