三十三話
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白峰天狗は私の右前に立ってこちらを見ると、神足通を使い左前に移動してみせた。
使われた五行は水と土。土に吸われていく水を彷彿とさせる五行の流れだった。
私は見えたものと同じように再現してみると、瞬時に視界が切り替わり式神さんの隣に立っていた。
「いやはや……これほどとは……すごいね、坂田サン」
「いいえ、本番はこれからです。私が覚えなくてはいけないのは宿命通です。式神さん、私やりますよ」
式神さんは私の肩を叩いて頷いた。それに私も頷いて応えると神足通で転移した。
「戻って来たか。君が覚えたい宿命通を私は使うことはできないのだ。だが、仕組みだけは教えることができる」
思わず私は「えっ」と声を出して驚いてしまった。
「自分で試してみるといい。人の心を象徴するのは『土』の気だ。幾重にも重なる心という名の大地を知るためには『木』の気で地中に根を伸ばさなくてはならない。そして、地中の根を成長させるのは命を表す『水』の気が必要になる。『土・木・水』の三つの気を操らなくてはならない」
私の足元に『土』の気を集中させた。そして、『木』と『水』の気を慎重に接触させてみると、みるみる大地の中に根が広がる光景が見えた。
見覚えのある私の生きた一生を辿り、その先へ向かった。
風流な琴の音が聞こえてきて私は目を開けた。
すると広がっていた光景は幼少の頃から夢で見てきた御殿だった。
目の前には川を意匠とした白い刺繍の施された赤を基調にした十二単を着た女性が琴を弾いていた。
(これが……前世?)
足音が近づいてきて、その方向を見ると来たのは式神さんだった。見慣れた重装備の甲冑を身に纏っている。だが刀を抜いて殺気立っているような気がする。
「お前が鈴鹿御前か?」
式神さんが女性に問いかけると女性は振り返った。
「えぇ、そうです。よくぞ、お越しくださいました。田村丸俊宗さん……」
鈴鹿御前は着ているものこそ豪華だが、顔の輪郭や目鼻の位置、声に至るまでは私と同じだった。
ということは私の前世は鈴鹿御前なの……?
そして、式神さんの名前は田村丸俊宗……。
「何故、私の名を知っている? 初対面のはずだが」
「あなたと会う未来を見ました。だから知っているのです。年貢を盗んだ私を朝敵として成敗しにきたのでしょう?」
「なら話は早いな。大人しく斬られてくれ」
式神さんもとい俊宗は鈴鹿御前に一歩また一歩と近づいて、鈴鹿御前に俊宗の刀が振り下ろされた。
だが、キーンと高い音が鳴り俊宗の刀は弾かれた。
鈴鹿御前の手に握られていたのは間違いなく顕明連だった。
「私が朝敵で盗人なのは認めましょう。では……盗品はどこにあると思いますか?」
たしかに御殿を見回してもそれらしきものは見えない。
あるのは琴と立烏帽子、豪華な御殿だけだ。
「別のところに隠してあるだけだろう」
「いいえ。すでに持ち主のもとへ返してあります。年貢を納めた庶民たちに」
いわゆる盗んだ者を貧しい者に還元する義賊ということだろうか。
だが、鈴鹿御前の言っていることが本当なのか判断は第三者として見ている私にもつかなかった。




