三十二話
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「どうも私です。私が名乗れない事情は信太師匠から聞いていますか?」
「あぁ、聞いているとも。あの時代の京を生きた者で、あなたに感謝をしない者などいないだろうな。天臣坊白峰千尋と言う。本当に会えて光栄だ」
式神さんと白峰と名乗った天狗は互いに頭を下げて敬意を表していた。
白峰天狗が『あの時代』と言ったからには、式神さんと同世代を生きたのだろう。
「やっぱり式神さんはすごい人だったのですね」
「あぁ、すごいともこの人は……おっと口を滑らせてはいけないのだったな。君が坂田鈴さんで間違いないな。友人の信太に頼まれて神通力の教師として今日は来た白峰だ」
私は「お世話になります」と頭を下げた。
「始めに言っておこう。私は修行によって天狗になった元人間だ。人としての寿命を超越し神通力を使えるようになった。だが生まれ持って五行を持たない君は私をはるかに超える神通力の使い手になるだろう」
自分の可能性を提示されて、期待がふくらんでいくのが心地いい。
「訓練部屋を用意しましょうかね。……はい、そっちに作っておきましたよ」
信太師匠は容易く指を振るだけで、大きな立方体の空間を結界屋敷に接続させた。
「まずは体験してみるといい。これが神足通だ」
白峰天狗は私の肩に触れた。
すると一瞬で訓練部屋の中央に白峰天狗と立っていて、近くにいた式神さんと信太師匠が離れていた。
「これは……空間転移や瞬間移動のようなものでしょうか?」
「そうだ。陰陽術は自分の体内の五行を使って術を行使するのに対し、神通力は体の外の五行そのものを扱う。私たちには自然そのものが味方に付いている。その仕組みを知ったのなら君に見えるはずだ。二人を見て目を瞑ってみなさい」
白峰天狗は離れている式神さんと信太師匠の方を指さした。
私は白峰天狗に言われたように式神さんと信太師匠の方に顔を向けて目を瞑った。
「……何も見えないです」
私は目を瞑ったまま答えた。
「五行を構成しているものを一つずつ思い浮かべるのだ。一つ、春の象徴。木々の成長の様子を表す『木』(もく)」
白峰天狗の言葉を聞き終えると、うっすらと緑に光る点と燃え滾るような勢いで輝く緑の奔流が見え始めた。
そして、足元に広がっている人々が暮らす家が見えてきた。
目を開けてみると緑に光る点は式神さん、緑の奔流は信太師匠の場所と一致していた。
「見えました。二人に流れる木の気、眼下に広がる家々の木材がはっきりと目を瞑っていても認識できました」
「やはり、才能に満ちているな。しばらく、目を瞑っていてそのまま聞いていなさい」
私は「はい!」と返事をして再び目を閉じた。
「一つ、夏の象徴。輝く光の様子を表す『火』(か)」
式神さんに赤く光る点と信太師匠に赤く燃え盛る奔流、そして眼下の町で使われている火の様子が見てとれた。
「一つ、大地の象徴。全ての命を支える様子を表す『土』(ど)」
二人に茶色く光る反応、さらには視界の先まで広がる大地が見えてきた。
「一つ、秋の象徴。堅牢で確実な存在を表す『金』(こん)」
二人に黄色く光る反応、そして式神さんの帯刀している刀、町で使われている鉄を使った道具が見えた。
「一つ、冬の象徴。湧き出る命を表す『水』(すい)」
二人に青く光る反応、さらに家々にためられた水を感じることができた。
「さて……どうだろうか。世界の見え方が変わったのではないか?」
「えぇ、この世界の全ては五行で構成されているのですね。もう一度、私に神足通を見せてくれませんか?」
はっきりと確信できた。
見れば、私は神足通を使えるようになる。




