三十一話
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「六神通というからには、術だったり力の種類が六つあるんでしょうか?」
「おそらくそうだろうな。私は神通力を使っている様子を見たことがあるが、何が何と言う力なのかまでは知らないんだ」
一つは信太師匠が宿命通と言っていたっけ。
「信太師匠が言っていた宿命通で自分や他人の過去や前世なんて知ってしまったら、私は私でいられるのでしょうか……」
「顕明連で平行世界を覗いても正気でいられたんだ。一人の過去を覗いたくらいでは問題はないんじゃないか?」
式神さんは、むしろ自分の過去を知って欲しいような印象を受ける。
「いくら私が陰陽師の家系にいたとはいえ、平行世界や神通力に手を出すことになるなんて思ってもいませんでした」
「そうだな。ただの陰陽師なら平行世界や神通力も、単語として頭の隅にあるまま過ごして一生を終えていただろうな。でも、鈴は違うんだ。君は特別なんだ」
今、思い返してみたら顕明連という銘から式神さんの正体に迫ろうとした『わたし』がいた。本を見つけることにも時間を要して見つける頃には大竹に黒塗りにされていた。
「私、必ず神通力を覚えてみせます。絶対です。式神さん……あなたのことを私、見つけますからね」
数々の失敗から私が式神さんの正体に辿り着くには宿命通を覚えるしかない。
そんな気がしてしまうほどに他の『わたし』は手を尽くしていた。
でも明日、私はすべての『わたし』の無念に報いる。そう決めたのだ。
すっかり夜になった頃、私はぐったりと疲れ切って天井を見つめていた。
信太師匠の結界屋敷は天井に透明度の高い結界が使われており、満天の星空を見ることができた。寮部屋に不満はなかったが、この絶景を見れる部屋というものには流石に憧れてしまう。
しかし、寝転がっている床も半透明で透けていて眼下には家屋が並んで人々の営みが見ることができた。
これに関しては少し落ち着かない事柄で、慣れが必要かもしれない。
敷布団は餅のように弾力のある結界で、まるで水に浮いているかのような寝心地で一度体験したら他の敷布団には戻れない、そう確信できた。
こんな生活ができるなら、正直に言って結界術……覚えたい。
良い寝具で熟睡できた私は陽の光で気持ちよく目覚めることができた。
その割には体中痛いままだったけれど。
「おはよう、坂田サン。握り飯でも食べるかい?」
「ありがとうございます。いただきます」
信太師匠は式神さんの分は用意していないようだった。そこに少しの冷たさを感じてしまう。しょうがないことなのに……。
私は握り飯を食べていると、結界屋敷の戸が開いたことに気が付いた。
現れたのは壮年の男性天狗だった。背中からは黒い翼が左右に広がり、山伏姿をして、いかにも天狗然としてた恰好をしていた。
短く切られ整えられた白髪で、生真面目そうな印象を受ける。
「あぁ、どうも白峰サン。忙しい時にすいませんね」
「こちらも、もう少し早く向かいたかったのだが遅くなり申し訳ない。それで例の式神様はどちらにおられる?」
今……『式神様』って言ったの?
物音に気付いた式神さんが部屋から出てきた。




