三話
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(なんか、流石に緊張してきた……)
心臓の鼓動が早くなるのが、自分でもわかる。
私は両親の言葉を守り、努めて『良い子』でいた。
悪く言えば『無難』な子供。
あまり他人と遊んだりしなかったが、陰陽術を学ぶことだけは怠らなかった。
しかし親の言いなりになっている自分に、いら立ちを覚えることがあった。
でも、それ以上に追放され両親の元から離れることが幼少の頃は怖かった。
十五歳の今は昔ほどの恐怖はないが当日になってみると、やはり多少の不安はある。
力の衰えた家とは言っても我が家は陰陽師の家系……。
そこで行われる儀式ならば相応の意味合いを持つことは間違いないはず。追放という言葉も嘘には思えない。
私には、気がかりな点が一つあった。
陰陽師の家系に生まれたにも関わらず、私は陰陽術の素養が皆無だった。
下手という話ではなく、全く使いこなせないのだ。
幼少の頃は、素養の無さ具合を近所の少年に馬鹿にされ、私は外に出なくなった。
追放されまいと必死で書物を読み漁り少しでも陰陽術を使えるように足掻いたが、儀式の当日になっても陰陽術は使えるようにはならなかった。
「……陰陽使えないのは儀式に影響ってあったりするの?」
「どうでしょう……。お母さんも、それはわからないかも」
母さんが嘘をついていることを私は知っていた。
いつだったか、母さんと父さんが話しているのを私は聞いてしまったのだ。
『鈴が陰陽術を使えないのは何か特別な理由があると私は思うわ。それに鈴がよく見るという夢が気になるの』
『それじゃあ、鈴は……』
『運命の人の可能性があるということです。でも……運命を選ぶかどうかの選択権を持つのも、また鈴自身ですから』
と、話しているのを聞いてしまい陰陽術が使えないことが儀式において特別な意味合いを持つことだと知っていた。
そして何度も見てきた、あの夢が今から行われる儀式に影響を及ぼしかねない要因であることも知っていた。
「……母さんは儀式の日に緊張したの?」
「もちろん。だって追放されるかどうかが儀式で決まってしまうのだから……もう、前日から眠れたものじゃなかった。一睡もできずに目にくまを作りながら儀式を受けたのは今では笑い話かも。でも、鈴もきっと大丈夫だから、そんなに心配しないで」
夢を見るほど、ぐっすり寝ていた私は図太いのかもしれない。
(でも母さんも含めて、歴代の『鈴』みんな不安だったはず)
追放なんて言葉をちらつかされたら嫌でも不安に思うのは当然というものだと思う。
私や母さんを含めた坂田家の娘はみんな不安を胸に十五歳まで生きたはず。
理由がどうであれ、こんな儀式を始めた祖先のことは少しだけ嫌い。
(でも、今日でモヤモヤからは解放される)
幼少の頃から十五歳に行われる儀式に対して常に不安があり、寝つきの悪い日が何日もあったりした。
十五歳に近づくにつれて追放される恐怖よりも、結果がどうであれ早く不安から解放されたいという気持ちの方が強くなってきていた。
「一回も追放者が出てない……。このことについて儀式を行う理由を知っている母さんなら追放者が出ない理由は納得できる?」
「えぇ。追放者は決して運では決まらないけれど、運命で選ばれる」
私は思わず唇を嚙みしめて『運命』という言葉が心配になってしまった。
「そんなものに選ばれる人が今後現れるのか、母さんは半信半疑に思ってるわ。だって千年経っても現れなかったのよ」
母さんは『運命で選ばれる』なんていう意味深な言い方をしたが、儀式が終わるまですべてを明かせないので言える範囲での回答といったところだろうか。
話している間に儀式の間に着き、母さんはピシャッと勢いよく戸を開けて中へ入っていき、私も続いて中へ入っていった。
すると儀式の間に着くとすでに父さんが座って待っていた。父はそわそわとして緊張しているような様子だった。
座る父と母の間には三本の刀が刀身のみの状態で台座に置かれていた。