二十九話
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「ん? あぁ、そういえば言っていなかったね。ワタシ、信太清明は妖狐さ。今じゃ耳も尻尾もないけどね」
思わず私と式神さんは顔を見合わせてしまった。
妖狐と言えば一応は妖怪に分類される。しかし邪気の類は全く感じない。
「尾がない妖狐なんて聞いたことないですよ。尾が少ない妖狐は弱いという印象が人間の間では広まっているんですけど、もしかしてご存じでないのですか?」
「その認識は半分正解さ。妖狐は九尾になり、さらに力をつけると尾が減るんだよ。今のワタシは九尾を経た空位零尾という妖狐でね。室町に幕府があった頃から生きてる妖狐だ。今は人間の味方をしているから安心して欲してくれたまえ」
信太師匠の噂が本人の口から肯定されてしまい、私は頭を抱えるばかりだった。
「昔は憑依とか変化とか使えたんだけどね。今じゃさっぱりできなくなってしまったよ。そうして有り余った力を結界術に使っているわけさ。だけど、式神術はさっぱりできなくてねぇ。なんでだろうね。はっはっは」
少し興味深い話だ。妖狐の極みに達すると使えていた力が使えなくなるなんて……。
姿だってそうだ。耳や尻尾がなくなり、人間になったみたいではないか。
「信太師匠の正体を他の人は知っているのですか?」
「あぁ、博士の人はみんな知っているよ。皆の了承のもとにワタシは博士をやっているんだ。時々納得しない人もいるけど……まぁ、その時は力でわからせるしかないけどね」
九尾の妖狐と言えば伝説級の大妖怪だ。その先に至った存在ともなれば式神さんが神様に近いと認識するのも無理はない。
室町の時代から生きているとなると豊富な知識にも納得がいく。
そして、長く生きているならば豊富な人脈があるのも想像できる。
「もしかして、信太師匠が呼んでくれた友人というのは天狗の方だったりするのでしょうか? 書蔵棟にある神通力の本は、天狗に関する本の近くにありました。天狗と神通力は関係のある事柄なのではないですか?」
「その通り。よくわかったね。ワタシの友人、天臣坊白峰千尋はたしかに天狗だ」
「やはり赤くて鼻の長いお顔でもしているのでしょうか?」
信太師匠は「はっはっは」と笑いながら手を振って否定した。
「位の低い天狗はそんなお面をしているけれど、白峰は上から二番目に偉い奴だからお面はしてこないかな」
「上から二番目! そんな偉いひとが私に神通力を教えに来てくれるのですか?」
組織の規模は読めないが教育担当のような、そこそこの天狗が来るものだとばかり思っていた。
「それに関してはワタシの友人が、たまたま偉かっただけの話かな。あと式神クンにぜひとも会いたいと本人からの希望でね」
「なるほど、同世代を生きたひとということですか」
式神さんと同じ時代を生きたひとならば、偉い天狗でも会いたくなってしまう……。
やはり式神さんも、ただ者ではないということだ。




