二十六話
毎日三話更新
「お、おかえりぃ」
「なんだ? その情けねぇ声は?」
「一日中、式神さんと刀を振ってたんです。おかしいですよね。ここは陰陽師の学びの場なのに……ははは」
「どうしてそうなった?」
「私の体には五行が流れていないから、陰陽術が使えないみたいです」
「……そんな人間いるんだな。陰陽術が使えない体質だったとしたら、あの式神は何者なんだ? 何故呼べたんだ? そもそも式神じゃねぇのか? だからあたしが操れなかったってことか」
雨宮さんは何やら小難しい考察をしていたが、私にとってはそれどころではなかった。
「私はもう寝ます。おやすみなさい」
「おぅ、寝とけ寝とけ。その様子じゃあ明日もそんな感じだろうしな」
目をつぶると疲労からか、どんどん意識が薄れていった。
翌朝、目をさますと今日も雨宮さんは先に寮部屋を出たようだ。
全身が力を入れようとすると痛む。そんな体の状態でも不思議と心は塞ぎ込んではいなかった。
むしろ対抗心が燃え上がる、そんな気がしていた。
すると外から式神さんと信太師匠の話し声が聞こえてきたので、急いで身支度を済ませると戸を開けた。
「あぁ、おはよう坂田サン。参考書のことは式神クンから聞いたよ。残念だったね。今日は神通力を教えてくれる友人が快諾してくれたことを伝えにきたんだ。友人が坂田サンと会うのは明日だ。だから何がなんでも今日を生き残らなくてはならない」
「今日、何か起きるってことですか?」
今の言い方だと間違いなくそう解釈してしまう。
「ワタシが敵なら今日にでも殺そうとするからね。疲労した状態であること、そして何よりも神通力という力にたどり着いた。夜行寮には無数の諜報用の式神が仕掛けられていたよ。坂田サンの行動は全て敵に筒抜けだと思った方がいい」
信太師匠の懸念は正しいと私も思う。何をして備えたら今日を乗り切ることができるのだろうか。
「今日一日だけでも、信太師匠の迷彩結界で匿っていただけないでしょうか?」
「ワタシは構わないけど、式神クンはどう思う?」
式神さんは眉間にしわを寄せて悩んでいたが、何か心を決めたようだ。
「私と鈴だけで全てを乗り越えます」
式神さんは堂々と宣言すると信太師匠は「わかった」と深く頷き肯定したようだった。
何やら私だけ置き去りにされているような気がした。
「信太師匠の力を借りるのが最善の選択だと思うのですが、理由を説明してください」
私は式神さんに尋ねると、式神さんは私に目線を合わせてゆっくりと語り始めた。
「私たちの運命は、なるべく自力で乗り越えなくてはならないんだ」
それは他の『わたし』が何度も聞いた言葉だった。
私の中で何かが壊れる音がした気がする。
感情が煮立ち蒸気を上げる、そんな感じだ。
「他の『わたし』は式神さんのその言葉を信じて死んでいきました。式神さん……あなたは本当に私を守りたいのですか? 守りたいのは大切な人の意思だけではないですか? 私のことちゃんと見てください!」
「それは……」と言葉を詰まらせる式神さんには申し訳ないけれど、他の『わたし』の死を見ているだけに黙って「はい」と答えることは出来なかった。
「説明もできない式神さんの大切な人より、今を生きている私の話を聞いてくれませんか? 怖いんですよ? 誰かに命を狙われているという状況は……」
「そうだな……。そうかもしれない。考えが及ばず、すまなかった。信太師匠、私からも改めてお願いさせて欲しい。迷彩結界で匿ってくれませんか?」
「わかった。二人の同意があるなら構わないさ。さぁ乗った乗った」




