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二十五話

毎日三話更新

 夜行寮を出て、私は近くにあった蕎麦屋を式神さんに紹介してみた。


 店の外から式神さんは、中を覗きながら驚いていた。


「式神さんが生きた時代に蕎麦はありましたか?」


「あれは蕎麦なのか? 蕎麦を食べる文化自体はあったのだが、麺にして食べる文化はなかったな」


「蕎麦屋だけではありませんが、ああした食事処が江戸にはいくつもあって銭を出せば誰でも食事をすることができるのです」


 式神さんは「そうか」と感心して通りをきょろきょろと見渡していた。


「ちなみに、この辺りは陰陽師が集められている居住区画なので、一般庶民の街並みとは少し違うかもしれませんね。特に『式神用品店』や『式神販売店』なんかは当然、一般の庶民の町にはないものですね」


「まぁそうだろうな。『式神用品店』ではお札や儀式に使う触媒などが売られているのか。『式神販売店』は式神自体を商品として販売している……興味深いな」


「恐らくですが、民の暮らしは平均的には昔と比べて良くなっていると思います。でも、ここからは見えない貧困層がいるのもまた事実です」




「いつの時代も全員が豊かにはなれまい。鈴が生活に困っていないならそれでいいさ」




 式神さんは満足して「帰るか」と踵を返し夜行寮を向いて歩き出していた。


 私は式神さんの言葉にとてつもない違和感を感じていた。


 出会って間もない式神さんのことで確信はないが……らしくないと言うのだろうか。


(私が困ってなければそれでいいの……?)


「おーい。どうした、鈴?」


「あ、いま行きます」


(あまり深く考えなくてもいいか)


 私は先を歩く式神さんに小走りで追いつくと夜行寮へと戻っていった。




 夜行寮に戻ると広場に行き剣術の稽古を再開することになった。


 式神さんの機嫌が良くなり、稽古は過酷さを増してしまった。嬉しい悲鳴だ。


「それにしても、飲み込みが早い。剣術の才能は間違いなくあるぞ。自信を持った方がいい。よしっ! 今度は刀の受け方を教えよう」


「はぁっはぁ……少し休憩もらえませんか?」


 素振りを何度も行って腕が痛くなってきていた。こんなにも腕を動かすことなど今までしてこなかった。


「だめだ。実戦では待ってくれない。疲労した状態で戦うことに慣れなくてはならない」


 式神さん、厳しいっ。だが、言っていることはもっともだ。


 私も覚悟を決めて、刀を構えた。


 すると式神さんは嬉しそうに「よし」と微笑んだ。


 受け方の稽古は素振りとはまた違った疲れ方のするものだった。


 姿勢をとり微調整を式神さんにしてもらう間、姿勢を維持しつづける必要があった。


 じわじわと全身に疲労が蓄積されて、夕食を食べる頃にはへとへとになってしまった。




 私は寮部屋に戻ると倒れるように横になってしまった。


 全身が痛い。一方の式神さんは「明日もやろう」と、なんだか嬉しそうに別れた。


 あんな意欲的な式神さんは他の『わたし』のところにはいなかった。


 私に式神さんが手応えを感じてくれているなら、それはそれで嬉しい。


 けど、体力的に辛いっ。


 しばらく、ぼーっと無心になって天井を見つめているとガラッと戸が開く音がして雨宮さんが帰ってきたようだった。

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