二十二話
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「…………」
何も起こらない。
「やっぱり……何も反応がないか。ちなみに、この札は生き物に流れる五行の種類を可視化させるものでね。君には五行がまったく、と言っていいほど流れていない。これならば、陰陽術を扱えないのも無理はない」
あらゆる生物には五行が少なからず存在して、陰陽師は自身にある五行を消費して術を行使する。
だが陰陽師でない家系の人間にも体内には五行が流れているため、訓練次第では陰陽術を使えるようになった前例があると教本に載っていた。
「私にだって五行は流れている。貸してくれないか」
式神さんは札に手を乗せると、じわーっと指先から黒い線がそれぞれ札の中で伸びていった。
一瞬、信太師匠は式神さんの方を見て首をかしげたが、すぐに表情を戻した。
何か式神さんの反応におかしな点でもあったのだろうか。
「普通の人間が手を乗せるとこうなるはずなんだ。坂田サンの正体は、やはりアレの可能性が高くなるばかりだ。何か、幼少の頃からあった非日常的な出来事はあったかい?」
信太師匠が予想している『アレ』という正体が気になるが、変わった出来事として思い当たることは一つだけだ。
「幼少の頃から同じ夢を何度も見ました。平安の頃のような御殿を歩いて座っている男性に声をかけようとする夢です。いつも顔が見える寸前で目をさましてしまって、一度もその男性の顔は見たことはないです」
「もしかして、声をかけようとしていた男性って式神クン?」
「背格好は似ていましたけど……言い切れません」
信太師匠は「ふむ」と呟き首をかしげる。
「そういえば顕明連を振って気絶した時も、その御殿にいた夢を見ました。今度は男性に声をかけようとせず、池に写るいろんな『わたし』の人生を体験する夢でした」
「ワタシはね、そっちの方は夢じゃないと思っているんだ。顕明連は平行世界を覗く権能を持った刀だからね。今、目の前にいる坂田サンが体験したことがないだけで、目にした出来事は全て実際に起こったことさ」
平行世界という概念についてはあまり理解しきれないけれど、実際に起こったことだというだけで、余計に悔しさが増す思いだった。
「どの『わたし』も長生きできていませんでした。今の私もそうなのでしょうか?」
「何もしなければ、そうなるだろうね。坂田サンは、この世界が運命に抗ってまで生きる価値があると強く思い続けることができるのかい? 運命ってやつを覆すにはそれなりに大変なものさ」
私は顕明連を振ったことで様々な『わたし』の人生を見た。
その中で唯一、私は他の『わたし』を認識した。何万、何億もの『わたし』が越えることのできなかった二十五歳の壁を乗り越えたい。
生きようとした全ての『わたし』の後悔、無念を私が晴らす。
「この世界に生きる価値があるかはわかりません。でも私は敵を知っています。そして、何人もの生きようとした『わたし』の無念を知っています。だから、大人しく死ぬつもりはありません」
「うん。いい目をしているね。ワタシがいろいろ調べている間は式神くんと剣術の稽古をしていてくれたまえ。大丈夫、また気絶したりはしないさ。顕明連の役割を知ったからには自分で制御できるはずだ」
式神さんの方を見ると大きく頷いて微笑んでいた。
「でも、大竹と鬼神という敵を知っているからには剣術だけで対応できるとも思えません。陰陽術も使えないと考えると、もっと力が必要です。何か心当たりはあるでしょうか?」
敵は鬼神。並みの式神でも返り討ちに遭う。式神さんは接戦にはなるものの残念ながら勝つまでには至らない。いくつかの『わたし』の人生ではそうだった。




