二十話
毎日三話更新
「おい、式神さんよ。顔がいいだけで全ては許されねえんだわ。人間ってのは簡単に気絶なんてしねぇ。あんたは焦りもせず冷静な様子でこの部屋に鈴を連れてきた。それに刀を振ったら気絶するってわかってたみてぇじゃねえか。その辺どうなんだ?」
「あぁ、君の言うとおり気絶するとわかって刀を振らせた」
雨宮さんは式神さんに詰め寄っていたが、式神さんは申し訳なさそうな表情を強めるばかりだった。
「これも、式神さんの大切な人の意思を守るために必要なことなのですね」
私が式神さんに聞くと式神さんは小さく「そうだ」と頷いた。
「なら仕方ないですね。きっと私があの光景を見ることは必要なことだったのでしょう」
「いいのか鈴? あんたは頭くらい下げておけ」
そういって、雨宮さんは式神さんを見て指を小刻みに動かすが、何も起きなかった。
「嘘だろ……あたしが式神を操れねぇなんて」
「操られるまでもない、すまなかった」
式神さんは頭を下げたが、雨宮さんの行動から察するに式神さんを操って謝らせようとしていたのだろうか。しかしそれは叶わなかった、ということだろう。
「まぁ、鈴は寝とけ。握り飯持ってきてやるから」
「いえ、私は大丈夫ですので……」
私は雨宮さんについていこうとしたが、式神さんに袖を引かれてやんわりと静止されて雨宮さんの言葉に従うことにした。
「ありがとう。雨宮」
「別にあんたに礼を言われる筋合いなんてねぇし」
雨宮さんは式神さんの爽やかな微笑みを見ると顔を赤くして大股で部屋を出ていった。
私も「ありがと」と呼びかけると雨宮さんはため息をつき手を振って行ってしまった。
二人だけの静かな空間になり、式神さんに確かめたいことがあったのを思い出した。
「敵は大竹と鬼神……これは間違いないですよね」
「半分正解だ。完全に理解できたなら、ともに運命に抗おう」
式神さん、また言葉を濁した。本当に慎重な人だ。
よっぽど大切な人の意思を守ろうと必死なんだ。
「大竹のことは……ただの不仲くらいだと思っていました。まさか、命を取り合う仲だったなんて想像もしていませんでした。今まで、そんな危機とは無縁な生活をしていました。でも、私が見た光景が本物ならば、抗わないといけません」
「そうだ。もはや鈴にとっての穏やかな日常はなくなってしまった。一瞬でも気を抜けば敵に殺される。そんな世界に君は足を踏み入れてしまったことを覚悟して欲しい」
顕明連を選んだ『わたし』は二十五歳を待たずに大竹に殺されている。そんな『わたし』を数えきれないほど見た。
母はきっと、顕明連を選んだらこうなると知っていた。
だから、私に選んで欲しくなくて少しでも長く、穏やかに生きられる追放されない選択をしてほしかったのだろう。
でも、顕明連を手にしなかったら、二十五歳で手詰まりだ。
二十五歳の先は顕明連を選んだ先にきっとあるはず。
その後、式神さんは寮部屋を出て、自分に割り当てられた寮部屋に戻っていった。
そして戻ってきた雨宮さんと握り飯を私は食べることにした。
「鈴はいいのか? あんな得体の知れない男なんかと一緒にいて……」
「えぇ、式神さんといることが私の気になっている謎を明らかにする手がかりなのです。私は式神さんに側にいて欲しいと思っていますよ」
「まぁ、鈴がいいって言うなら、あたしはこれ以上の文句は言わねえけど……気をつけろよ。人間が式神として呼ばれるなんて珍しいからな」
私が食べ終わると雨宮さんは書類の暗記に戻っていった。私の方は念のため横になってそのまま寝てしまうことにした。




