二話
毎日三話更新
朝食を食べる両親の表情は固く無言だった。両親が緊張した様子でいるのも今日行われる儀式が悩みの種なのだろう。
沈黙に耐えかねて私は両親に話しかけた。
「そんなに心配なの? 私……十五年間、良い子でいたよね?」
「あ、あぁ。でも万が一、鈴が追放になんてなってしまったら父さんは……」
「心配しすぎですよ、あなた。千年続いてきた、この儀式で追放者なんて一度も出ていないのだから私たちの娘もきっと大丈夫」
これから受ける儀式は私が受けるもので、結果次第では家を追放されることになる。
だけど、母さんが楽観しているように追放者が歴代で一人も出たことのない。茶番のような儀式だ。
(どうせ私も大丈夫なはず……)
私は儀式の内容も知らなかったけれど、楽観していた。
『いい子にしてないと十五歳で追放されてしまうよ』
私の小さい頃から両親に言い聞かされてきた決まり文句だった。
我が家、坂田家は陰陽師の家系で儀式を終えるまで娘は決まって『鈴』(すず)と名乗ることになっている。
母さんだって十五歳までは先代の『鈴』として過ごして追放されずに儀式を済まして、現在に至るというわけだ。
何度か母さんに儀式について聞いたことがあるが、終わるまで話せないと言ってずっと教えてくれなかった。
我が家は陰陽師の家系といってもすっかり力の弱まってしまった落ち目の家であるのは幼い自分でも周囲の様子から容易に察することができた。
ただ、十代将軍徳川家治の治世の現在、陰陽師の家で力を維持している一族の方が稀であり、他の家も同じような悩みを抱えているという。
「鈴、食べ終わったらお母さんの部屋に来てちょうだい」
「準備があるんだったね……わかった」
私は急ぐ必要はないと知りつつも、自然と米をかきこんで味噌汁を飲み干した。
母さんは急いで食べてしまった私のことなど、お構いなしにいつも通りのゆっくりとした食事をして平らげた。
私は廊下を歩く母の後ろを、付いて歩いていた。
「儀式ってどれくらい時間かかるの?」
「鈴が悩まなければ、すぐ終わるものね」
私次第ということか……。
でも、適当に終わらせてはいけないのは感じている。一応は家からの追放がかかっているのだから。
そして母の部屋に着くと思わず驚いてしまった。
部屋の中央に赤を基調にした十二単が立てかけられて準備されていたからだ。
ありふれた花柄の模様で染められていたが、夢で私が着ていたものとは見た目からして違った。
「その十二単って……」
「儀式のときはこれを着ることになっているの」
思わずいつも見る夢で着ている赤い十二単を意識してしまう。
しかし、母さんに着せられる間にずっしりと重みを感じ、夢で着ていたものとは別物だと、改めて感じてしまう。
それでも、十二単を身に纏うと普段の着物よりは豪華に見える。
「うーん、流石に重い……」
「でも……様になってるわ。それではいきましょうか、鈴」
母さんに手を引かれて私は儀式の間と呼ばれる部屋へ廊下を歩いていった。