十九話
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また池に滴が落ちて違う『わたし』の一生を見届けた。
その『わたし』は十五歳の儀式で顕明連を選び追放されたが、夜行寮で式神を呼ぶことができずに大竹の式神である鬼神に殺された。
さらに滴が落ちて、少しずつ違う『わたし』の一生を見ることを何回も繰り返した。
そんな風にわずかに違う、ありとあらゆる生き方をした『わたし』の一生を私は見ていることしかできなかった。
私が行ったあらゆる選択の分岐と結果を余すことなく見て、知ってしまった。
数万、数億……もういくつの人生を見たかもわからない。
気が狂いそうだった。
でもそれ以上に悔しかった。
誰も二十五歳を越えて生きた『わたし』がいなかった。
坂田家を追放されなかった『わたし』は病死、事故などで二十五歳を越えることなく必ず死ぬ。
明らかにそれは不自然だった。
坂田家を追放された『わたし』は、いつだって大竹とその式神である鬼神に殺される。
私もこのままだと同じ道を辿ることになるのは間違いない。それもまた不自然に思えて悔しかった。
顕明連は『運では選ばれない、運命で選ばれる』と母は儀式の前にそう言っていた。
大竹に殺されることが運命だとでもいうのだろうか。
「そんなわけないッ!」
私は誰もいない池の前で思わず叫んでしまった。
他の『わたし』と違うところは信太師匠に師事していることと、他の『わたし』を認識したことだ。
どちらも大きな違いだ。特に信太師匠に相談できることも心強いことこの上ない。
そもそも、顕明連で稽古をつけるように言ったのも信太師匠だったではないか……。
まさか、他の『わたし』のことを見ることまで信太師匠の想定通りの行動だとしたら……あまりの頭脳に身震いすらしてしまう。
式神さんは他の『わたし』も呼んでいた。けれど、大竹の鬼神に勝てずに負けていた。
本当に大事にしなくてはいけないのは式神さんではなく、信太師匠なのではないだろうか。そう思わずにはいられない。
だが大竹が、ただのいじめっ子などという甘い認識から命を狙っている恐るべき敵という認識に変わっただけでも用心のしようがある。
しかし、未だに私を狙う理由まではわからない。また謎が増えてしまった。
私は抜き身で持っていた顕明連を納刀すると目を瞑った。
明確に敵を認識した私が目を覚ますと、寮部屋の中で自分が横になっていることに気が付いた。
そして私が目を覚ましたことに気付いた雨宮さんが心配そうに顔を覗きこんでいた。
私は横になっていた体を起こすと雨宮さんに尋ねた。
「……式神さんはどこにいますか?」
「後ろだ。……それより大丈夫なのか? 気絶したらしいが」
式神さんは私の背後にいて振り向くと「大丈夫か?」と尋ねてきた。
「ええ……大丈夫です。……式神さん、私が見た無数の人生、あれはなんですか?」
「その刀の権能とだけしか言えない」
式神さんは申し訳なさそうに口を濁した。




