十七話
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「そっちの地球博士様はどうだったんだ? 噂通りの変人だったか?」
「すごかったです。私の持っている刀の名前から、私が呼び出した式神さんの正体を即座に当ててしてしまいました」
大の字に寝ていた雨宮さんはガタッと食い気味に近づいてきた。
「で、あの式神、何者だったって?」
「式神さんが私に自力で正体にたどり着いて欲しいみたいです。なので、その場では教えてくれませんでした」
雨宮さんは「教えてくれないんかいっ」とずっこけて、再び大の字になって横になり天井を見つめていた。
「おそらくは願掛けの類だな。あたしもその刀の名を聞いたら、あの式神の正体に気がついちまうかもしれねぇな。口を滑らせないように、刀の名はあたしには教えないでおいてくれよ」
「わかりました。……願掛け。何かの誓約の条件なのでしょうか? また謎が増えてしまいました」
「あたしの師匠も流石に正体を気にしていたぞ。人の式神なんて珍しいからな。悪さはしなさそうか?」
「師匠は正体がわかった途端に警戒を解いていたので、式神さんは悪い人じゃないみたいですけど……私は正体がわからないので納得いっていません」
「しかし、刀一本から正体を導き出すなんてとんでもねぇ知識を持った人みたいだな。それとも刀と式神の知名度があるとか、かもしれねぇ。当たりを引いたんじゃないか」
「正直、強さよりも正体の方が気になるんですけどね……」
「ほーん。ま、簡単に正体がわかってもつまらねぇし、楽しみが残ってよかったじゃねぇか。……あたしは書物の暗記に戻るとするよ」
雨宮さんは起き上がって書物を開いて黙読し始めた。
私の宿題と比べて物量がとてつもない。時折、書物から垣間見える文章は陰陽術に関したものというよりも、組織としての動き方について書かれていた。
雨宮さんは陰陽師として必要な技術はすでに持っていて、組織的な決まり事さえ理解してしまえば即戦力になるという高い評価を得ているのかもしれない。
一方、私の方は正体を見極めるところから、といった印象を感じる。
陰陽術の素養が皆無の私を信太師匠は『やっぱりね』と予想していたように思える。
そして『何もかも規格外』と私のことを評した。
信太師匠は式神さんの正体を確定させることができたはずだ。
次は私のことを明らかにする番ということなのかもしれない。
私と雨宮さんは夕食を食べに食堂へと向かっていた。
「師匠がついたおかげで、あたしたちは飯代タダだ。これだけでもありがたいな」
「でも、ここの食堂は握り飯ばかりでは飽きてしまうかもしれませんね。その時は町に出て蕎麦でもどうでしょうか?」
「いいねぇ。うまいところ知ってるから案内してやるよ」
ひとまず今日は夜行寮の食堂で握り飯を食べることにしたのだった。
握り飯を雨宮さんと一緒に食べていると、急に辺りがざわつきだした。
がちゃがちゃと甲冑の音を立てながら足音がこちらの方に向かってきたので、式神さんがきたのだと察して私は音の方を向いた。
「どうだ? 疲れていないか?」
「全然大丈夫です。式神さんは部屋を確保してもらえましたか?」
「あぁ、何事もなく確保してもらえた。それの報告にきたんだ」
隣にいた雨宮さんは式神さんのことを足から頭までじっくりと観察して「うーん」と頭をひねらせた。
「なーんか違和感があるんだよな。っていうか『式神さん』って呼んでるのかよ」
「だって、名前を知らないので……あ、式神さんに紹介しておきます。相部屋でお世話になってる雨宮千鶴さんです」
「名乗れずにすまないが、私と鈴ともどもよろしく頼む」
雨宮さんは「お、おぅ」と急に目を逸らし、豪快に開いていた大股をしおらしく閉じて髪を手櫛で整え始めた。
「少し鈴をお借りしたいのだが、よろしいかな」
「あ、あぁ構わねえさ」
「何か用事でもあるのですか?」
式神さんは「ついてきて欲しい」と言って私の少し前を歩いた。




