十四話
毎日三話更新
「式神さん姿を現してくれますか?」
私は空に向かって話しかけると、瞬きした一瞬でスッと式神は目の前に現れた。
式神さんは相変わらず重装備の甲冑を身に纏っている姿で、用心深く周りを警戒しているようだった。
「話だけは聞こえていた。よもや、こんな光景を見る日がこようとは思ってもいなかった。素晴らしい技術に敬意を表します」
(やはり、式神さんが見てもすごいものなのか……)
敷物に座ると思わず「わ!」と声を出してしまった。結界で作られて敷物の見た目をしているのだが餅のように柔らかな質感だったからだ。
「結界の五行配分を調節すると、そんな質感も出せるんだ。敷物は固いより柔らかい方がいいでしょ。本当は色づけすることも可能だけど、なかなか手間がかかるから、あまりやらないことが多いけどね」
信太師匠は、ぽよんぽよんと敷物で弾みながら笑っていた。
「ま、まぁ確かにそうなんでしょうけど……」
博士になるような人は一般陰陽師の想像を超えた生活をしていることに全く理解が及ばない。変人度合いが毎秒更新されていく。
式神さんも流石に慣れない様子で恐る恐る、柔らかな敷物に腰下ろしていた。
「さぁ、単刀直入に聞こうか。式神クン……キミ、何者だい?」
信太師匠は眼鏡を押し上げると途端に目つきが鋭くなった。その問いに式神さんは俯きながら答えた。
「悪いが名乗れない。ただの古い人間と思って欲しい」
「ふーん、そうかい。でもまぁ、ワタシが見たことがないってことは本当に古い人間なんだろうね。悪いことしようとしているなら、無駄だから大人しくしておいてよ」
今までの飄々とした信太師匠からはかけ離れた低い声が心臓の奥まで響き、とてつもない重圧が発せられた。
一瞬にして海の底に引きずりこまれたかのような感覚で、思わず私は床に手をついて咳き込んでしまった。
すると式神さんはすかさず私に駆け寄り背中をさすってくれた。
「『私』は何もしないッ、鈴にだけはッ……鈴にだけは、優しくしてやってください。鈴を守る意思だけは本物と信じて欲しい」
式神さんは信太師匠に深々と頭を下げていた。
「ごめんごめん。ちょっとおどかしすぎたね。許しておくれよ。ワタシの知らない人物だったものだから緊張してしまったんだ。でも『今』のキミの言葉は信じよう」
「何か、式神さんについてわかったのですか?」
「いいや、何もわからないけれど疑いは一つ潰せた」
今、さっき行った信太師匠の『おどかし』で何か式神さんの疑惑は一つ晴れたようだが私にはさっぱりわからなかった。
しかし、信太師匠は平常通りの飄々とした表情に戻っている。ひとまず安心してよさそうだが、心にとどめておくだけにしよう。
「坂田サン……人間が式神として呼ばれた例は少ないけど過去にあった。名乗らない人間の式神は超弱いか、超強いの二択さ。強い人だといいね」
信太師匠は正直言って怖い人だ。飄々として他人行儀で誰も信用していないような、底の見えない何かを感じる。
でも、せっかく式神さんを呼び出したのだ。私だって聞きたいことを聞いておかなくては……。




