十三話
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信太師匠は指を回すように動かすと、私たちの乗っていた結界の乗り物に椅子のようなものが生成された。
信太師匠はそれに腰かけて「まぁ、座ってくれたまえ」と私にも座るように言った。
「結界術はすごいですね。なんというか、応用性があるというか……」
「そうなんだよ。わかるかい? 結界術は素晴らしいんだよ。でも、みんなやろうとしない、いやできないのかな」
信太師匠は残念そうに顔を落としている。
近年、結界術を使える陰陽師は皆無だという。ほぼ全ての陰陽師が式神術しか扱えないという状況になっていた。
信太師匠は結界術を扱える最後の陰陽師と教本には載っていた。
「どうして、陰陽師は結界術が使える人が減ってきたのでしょうか?」
「複雑な理由があるのだけど、簡単に言えば結界術を使える陰陽師が絶えてしまったからという話さ。ちなみに坂田サンは式神術をどこまで使えるのかな?」
「私、陰陽術の才能が皆無というか。今まで連絡用に使う紙片の式神すら動かせたことがないんです」
信太師匠は「やっぱりね」と嬉しそうに微笑んだ。
私の才能の無さに楽しさを見出せるなんて噂通りの変な人だ。でも、不思議と馬鹿にされたような気はしていない。
「安心してくれたまえ。人には向き不向きがあるというだけの話さ。坂田サンが得意なことを見つけること、それが必要なことさ」
「私、陰陽師の家に生まれたんですけど……それでも陰陽術が私に合っていないということでしょうか?」
「その通り。陰陽術の訓練なんて坂田サンには必要ないよ。これから適正の確認をしていくつもりさ。でも、キミの適正がワタシの予想通りなら陰陽術より便利なものを手にすることだってあると思っているよ」
陰陽術より便利なもの……? 何があるのか全く想像がつかない。
どちらにしろ、陰陽師として落ちこぼれるよりは、ずっといい。
話している間に目的地に着いたのか、結界の乗り物は動きを止めたようだ。
「あぁ、着いた着いた。何もないように見えるかもしれないが我が家へようこそ」
座っていた結界が動きを止めたのはわかるが何も見えない。何を言ってるんだこの人。
ぱちんと信太師匠は指を弾くと空間がめくれるように戸が開いた。
その中にはあらゆる家財が半透明の家がそこにはあった。
床すらも半透明で眼下には人々の往来が見える。
箪笥すらも半透明で中に入っている衣類が透けて見えていた。
読み書きをする机すら半透明で、極端に物が少ない無機質な空間だった。
「これは家なんですか?」
「そうそう。初めて見ると不思議に思うかもね。外からは迷彩結界で中が見えないようになってる。中の家具はワタシの結界造形で全部作ってある。便利でしょ結界術」
得意げな信太師匠に私は心の底から驚いてしまった。信太師匠の結界術推しがアツい。
家の中に物が少ないのは、きっと必要になった物をすぐに結界で作ってしまえるからなのだろう。
「結界って立方体の印象が強かったので、こんなこともできるなんて……すごいです」
「八百万四方合一という全ての物体は四角の集まりで造形できるというワタシの思想でね。例えば、箸が欲しくなったとするだろう? そうしたら長方形の細い結界を八枚、作ってそれを筒状に結合すれば……ほらできた」
信太師匠は生成した結界箸を私に手渡してきた。
重さを感じないが、かちかちと物を掴むことができる。これ……すごくないか?
「この技術、廃れさせちゃだめですよッ! もっと多くの人が使えるようになったら世界は変わります!」
「ワタシも普遍化するための研究は、しているんだけどねぇ。難しいものさ」
私は「そうですか」と引き下がるしかなかった。こんな便利な技術が廃れてしまうなんてもったいないと憤りすら感じた。
「まぁ、今日は三者面談をしようと思って家に招待したってわけさ。式神くんを呼んでみてくれたまえ」
結界屋敷を歩いて進んでいくと敷物らしきものが三つあった。そこで話し合いをするのだろう。




