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試験の合否

認められた戦士


ガルヴァンは、意識を失い倒れたグラゴを静かに見下ろしていた。戦いの余韻がまだ体に残る中で、彼はゆっくりと剣を鞘に収める。そして、周囲の冒険者たちを一瞥すると、力強く言い放った。


「見たか? こいつは俺に一撃を入れ、しかも傷をつけた。ここにいる誰よりも、『戦士』としての資格を示したんだ。」


訓練場に集まっていた冒険者たちは、静まり返ったままその言葉を聞いていた。ついさっきまでゴブリンの戦士を笑っていた者たちも、今は誰も嘲笑の言葉を口にしない。むしろ、グラゴを見る目は変わっていた。


「もし、この判断に文句があるなら、俺にかかってこい。」


ガルヴァンが鋭い目を周囲に向けると、誰一人として声を上げなかった。それどころか、静寂の中に尊敬の色が滲むようだった。


「ゴブリンが、こんな戦いをするなんて…」

「初めて見たよ…あんな動き…」


冒険者たちの囁きが聞こえる中、リアナは訓練場に駆け寄り、倒れたグラゴを抱き起こした。


「グラゴ、大丈夫!? しっかりして!」


彼女の目には涙が浮かんでいた。あの一撃を受けても立ち向かい、最後にはスラッシュを放ったグラゴ。その姿は、彼女の想像を超えていた。


「あなた、本当にすごかった…! でも無理しすぎよ…!」


彼女の声には、心の底からの労わりが込められていた。


ガルヴァンはリアナの言葉を聞きながら、倒れたままのグラゴを見つめた。そして、静かに歩み寄ると、彼の体を肩に担ぎ上げた。


「こいつを運ぶぞ。医務室だ。」


そう言って、彼はそのままギルドの建物へと歩き出した。


ギルド医務室での目覚め


ギルドの医務室に運ばれたグラゴは、すぐに治癒師の手当てを受けた。治癒魔法が施されると、彼の傷口はみるみるうちに塞がっていく。完全に治るわけではないが、これで危険な状態は回避された。


「この子、本当に無茶するわね…」と治癒師は呟きながらも、懸命に治療を続けた。


しばらくの間、グラゴは静かに眠り続けた。


しかし、やがて──


「……ん……」


グラゴの意識が戻った。ゆっくりと瞼を開けると、そこにはリアナの姿があった。


「グラゴ! よかった、目が覚めたのね!」


リアナは安堵の表情を浮かべ、彼の手をぎゅっと握った。


グラゴは少しだけ首を動かし、周囲を見渡した。どうやら、ギルドの医務室のようだった。そして、自分の体が治っていることに気づくと、ふと疑問が浮かんだ。


「……試験はどうなった……?」


その問いに答えたのは、部屋の隅に立っていたガルヴァンだった。


「合格だ。」


短く、だがはっきりとした声だった。


グラゴは、少しの間だけその言葉を理解できなかった。しかし、ガルヴァンが続けた言葉を聞いて、ようやく現実を受け止めることができた。


「お前は立派な戦士だ。ゴブリンが、俺に傷をつけた。それだけで十分、戦士としての証明になる。」


グラゴはしばらく沈黙した後、ゆっくりと息を吐いた。


「そうか……」


すると、ガルヴァンが少しだけ表情を和らげ、質問を投げかけた。


「お前、スラッシュのスキルは元々使えたのか?」


その問いに、グラゴは少し考えた後、正直に答えた。


「いや、違う。あの戦いの中で見たままを再現しただけだ。」


その言葉に、ガルヴァンは僅かに目を見開いた。リアナもまた驚いた表情を浮かべた。


「……見たままを再現……?」


「そうだ。」


グラゴは静かに続ける。


「俺にはスキルはない。だけど、お前がスラッシュを放つのを見て、その動きを理解した。だから、同じように剣を振るえば、同じようにスラッシュが出るんじゃないかと思った。それだけだ。」


その言葉を聞いた瞬間、ガルヴァンは驚きを隠せなかった。


スキルは通常、神から恩恵により先天的に習得するか、技を極める中で後天的に習得するかのどちらかで見よう見まねで出来るものではないからだ。


だが、グラゴは「見たままを再現しただけ」と言う。


それはつまり、何かしらのスキルに目覚めそれによりスキルを再現したとしか思えなかった。


ガルヴァンはしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。


「……面白い。お前、本当にただのゴブリンか?」


グラゴは何も答えず、ただ薄く笑った。


リアナは、そんな二人を見つめながら、静かに微笑んだ。


こうして、ゴブリンの戦士・グラゴは正式に冒険者として認められた。

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