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スキルの脅威

人とゴブリンは、姿形こそ大きく異なれど、共通する点がある。それは、他の種族に比べて力や魔力に特筆すべき点がなく、どの分野においても中途半端な存在であるということだ。しかし、人にはひとつだけゴブリンにはない圧倒的な優位性がある。


それがスキルの存在だった。


神の恩寵や個人の絶え間ない努力から発現するこの力は、人間にとっては特別なものではなく、むしろ当たり前のように習得できるものである。冒険者として名乗る者なら、最低でも二つはスキルを持つのが普通だった。だが、スキルを持っているゴブリンはほとんどいない。彼らは生まれながらにしてスキルを授かることが極めて稀であり、ほとんどのゴブリンはスキルを持たずに一生を終える。


だからこそ、この戦いは決定的な意味を持つ。


ガルヴァンが、スキルを発動しようとしているのだ。


「悪いな、これも試練だ」


そう言いながら、彼は剣をゆっくりと横に構えた。鋭く冷静な眼差しがグラゴを捉える。リアナがハッと顔を強張らせ、周囲の冒険者たちがざわついた。


「ガルヴァンさん、本気を出すのか…!?」

「バカな! 新人相手にスキルを使うなんて!」


「逃げて!」リアナが叫ぶ。しかし、時すでに遅かった。


ガルヴァンはただ一言、


「死ぬなよ」


と静かに言い放ち、剣を振るった。


スキル──『スラッシュ』


その瞬間、空気が震え、雷鳴のような轟音が響いた。剣が音速を超えたことで生まれた衝撃波が、まるで刃となりグラゴへと迫る。


刹那、グラゴは死を悟った。


(避けられない──!)


これまでの敵では見られなかった。圧倒的な速さ、破壊力。これを真正面から受ければ、間違いなく身体が両断される。


だが、グラゴは逃げなかった。


彼は、ガルヴァンがスラッシュを放つ直前の無駄のない動きを、目に焼き付けていた。その軌道、間合い、力の乗せ方──すべてを理解した。


(やるしかない…!)


グラゴは咄嗟に身体を仰け反らせた。


ズバッ!


音速の斬撃が、グラゴの皮膚を裂いた。血が飛び散り、痛みが脳を突き抜ける。しかし、それでも致命傷は避けた。


周囲の冒険者たちが目を見張る。


「う、嘘だろ…? スラッシュを直撃せずに避けたのか!?」

「ゴブリンにこんな反応ができるはずが…!」


だが、グラゴは周囲の反応を気にする余裕はなかった。意識が遠のきそうになる中で、彼はただ一つのことを考えていた。


(さっきの動きを…再現する…!)


スラッシュの一連の動作が、脳内に鮮明に刻み込まれていた。これなら、俺にもできるはずだ。


今の自分にはスキルがない。だが、スキルとは、絶え間ない努力によっても発動する。そして自分はこれまで誰よりも剣に向き合ってきたのだ。


グラゴは震える手で剣を横に構えた。周囲の冒険者たちがその動きに目を見張る。


「まさか…?」


ガルヴァンが表情を引き締めた。


次の瞬間、


グラゴは『スラッシュ』を放った。


剣が空を切り裂き、音速の斬撃がガルヴァンへと迫る。


「な…!?」


ガルヴァンは目を見開いた。まさか、スラッシュが飛んでくるとは思っていなかった。油断ではない。単純に「ありえないこと」だったからだ。


しかし、それは現実となった。


「くっ…!」


ガルヴァンは咄嗟に身を翻したが、完全には避けきれなかった。斬撃の衝撃波が腹部を掠め、服が裂けると同時に鮮血が滲む。


「おい…嘘だろ…?」


周囲の冒険者たちは愕然としていた。


「ゴブリンが…スラッシュを放った…?」

「そんなことがありえるのか?」


ガルヴァンは傷口を押さえながら、ゆっくりとグラゴを見た。


「こいつは…本当にゴブリンなのか…?」


そして──


グラゴは、意識を飛ばし、そのまま前のめりに倒れた。


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