月光の剣
グラゴは、ボロボロな剣を握りしめながら、静まり返った夜の森を歩いていた。その剣は、彼が幼い頃から使い続けてきたもので、何度も修理を重ねた跡が残っていた。握るたびに軋む音が聞こえ、刃は所々欠け、今にも崩れ落ちそうなほど頼りなかった。
月明かりが木々の隙間から差し込む中、しばらく歩き続けたグラゴは、突然森の奥に広がる開けた場所に出た。そこは、木々が途切れた静かな円形の空間で、月光が辺り一面を銀色に照らしている。その中央に、何かが地面に刺さっていた。
近づいてよく見ると、それは一本の剣だった。奇妙な形をしており、片側にしか刃がないその剣は、月光に照らされ、鈍く光を放っていた。その剣の周りだけ空気が違っていた。グラゴの胸が高鳴る。「これは運命だ……」と、彼は直感的に感じた。この剣が、自分の人生を変える何かであると。
ゆっくりと剣の柄に手を伸ばし、力を込めて引き抜く。剣は思ったより軽く、彼の手にしっくりと馴染んだ。試しに軽く振ってみると、その鋭さとしなやかさに驚いた。これは今までのどんな剣とも違う。グラゴの心には、不思議な力が宿るような感覚が芽生えていた。
しかし、この剣を手に入れるだけでは終わらなかった。剣にはまだ鞘がない。このままでは刃をむき出しにして持ち歩くことになる。彼はその場にしゃがみ込み、周囲の木や蔓を使って剣を納めるための簡素な鞘を作り始めた。作業に没頭するうちに、周りの空気が変わっていることに気づいた。何かがいる――低い唸り声が森の中から聞こえ、彼の背筋に寒気が走る。
顔を上げると、暗闇の中で光る目がいくつも見えた。狼の魔物だ。それも、ただの動物ではない。体は普通の狼よりも二回り大きく、鋭い牙と筋肉質な体が、確実に彼を仕留めようとしている気迫を放っていた。魔物の群れが、いつの間にか彼を包囲していた。
グラゴは腰を落とし、剣を構える。冷静だが、心臓の鼓動が早まるのを感じた。最初の一匹が唸り声を上げ、彼に飛びかかってきた。その瞬間、グラゴは剣を一閃させた。月光を受けた剣の刃が狼を切り裂き、重い音を立てて地面に崩れ落ちた。息を呑むような静寂が一瞬訪れる。倒れた仲間を見た他の狼たちは一歩引き、次の攻撃のタイミングを計るように距離を取った。
だが次の瞬間、残りの狼たちは連携して襲いかかってきた。一匹がグラゴの右から、もう一匹が正面から突進する。同時に、背後からも動く影が迫る。だがグラゴは慌てなかった。焦らず、一つ一つの動きを見極めていた。どれほど速くても、攻撃の瞬間には必ず接近する必要がある。その一瞬が狙い目だ。
背後の気配を感じたグラゴは振り返らず、片手を後ろに伸ばす。そのまま飛びかかってきた狼の首を掴むと、力を込めて地面に叩きつけた。鈍い音とともに狼は動かなくなる。そして次の瞬間、正面から迫ってきた三匹目の狼を迎え撃つように剣を振り、斬り伏せた。血しぶきが月明かりに反射して輝く。
それを見た残りの狼たちは唸り声を上げながら後退し、ついには逃げ出していった。グラゴは剣を構えたまま、彼らの背中をじっと見つめていた。
「この剣は……ただの道具じゃない。俺に、もっと先へ進めと言っているんだ」
彼は深く息を吐き、剣をゆっくりと鞘に納めた。そして夜の静寂が戻る中、再び歩き始める。新しい剣とともに、彼の冒険はまた一歩進んだのだった。