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後部座席の殺伐としたコメディーに、チキンのハートを持つ運転手が、ルームミラーを視線で啄む。タクシーが走る国道は、恐らくは目的地を同じくした車でごった返している。追突でもされたら面倒だ。秀一は、白煙をルームミラーへ吹きかけた。
目的地は――サックガーデン加護江ショッピングセンター。
地元では頭一つ抜けたプレイスポット(そもそもそこぐらいしか、無理にでもそう呼べるような場所が存在しない……)となっており、四季折々に催されるイベント――特に冬季、クリスマスイブに催される『サックガーデンクリスマスフェスタ』は盛大で、25日に日付が移り変わるまで、店舗から音楽とネオンが絶えることはない。
フィンランドからやって来る真っ赤な飛行機を待ち焦がれ、シャンパンで愉快に酔っ払い、業務をほっぽり出した浮かれた空港。そんな様相の建物を、車窓を透かし、岡島秀一は仰ぎ見る――
そんなに赤を望むのならくれてやろう。惑星国家『地球』の独裁者。真の支配者。その者は、無敵であるべきなのだ。戦うべき敵などいない。かと言って、手を取り合う味方もいやしない。自分以外の人間は、全てが足元に跪く奴隷である。そんな支配者を差し置いて、奴隷が笑う――黒い夜。今のうちに、せいぜい盛り上がっていればいい。今夜が最後、なのだから。いつかの誰かさんのように言ってやろう。この俺が――真っ赤に真っ赤に塗り潰す。
既に勝利はこの手の中――
あとは――握り締めるだけである。
秀一は、研ぎ澄ましたその眼差しでもって、ショッピングセンターの峰を貫いた。
無償でタクシーを降り、空きが皆無の駐車場を横目に、正面東入口より、ショッピングセンターへと入場する。そこはまるで、巻き網の中のようだった。潤目鰯の群れのように、ひしめき合う来客達。吹き抜けの天井に昇る『ジングルベル』も、大漁節に聞こえてくる。雑魚の中で、鮫(……とコバンザメ)は、泡を潜めて移動した。進行方向に、眩しく飾り立てられた、見上げんばかりのクリスマスツリーが見えてくる。その根本には、円形のステージが設けられており、以前は顔を観るだけで胃もたれを起こす程テレビに出演していたピン芸人が、以前と変わりのないネタを披露している。眼前に立つ老爺は、そんな壇上のピン芸人を仰ぎながらも、手を繋いだ小学生ぐらいの少女に向かって、「テレビに出られなくなった芸人は、こういう所で食い繋いでいくしかないんだよ」と、腐ったスイカのようなハゲ頭を撫で回す。
秀一は立ち止まり、そんな周囲の人間達を眺め見る。もうすぐ始まる来年も、馬鹿は馬鹿らしく、馬鹿にされるがままに生きていく――そんな者、生きるも死ぬも同じだろう。
ステージの広場に面した通路に、屹立する巨大な柱時計。時刻は5時の42分――
傾くスキットル、火が移る煙草。アルコールとニコチンが、血液の奔流に乗って、脳みそへと突き刺さる――兵糧を得た脳細胞が、今をもって気勢を上げた。
「そんじゃまぁ――行くとしますかぁ」
「う、ういっす!」




