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「これは……」仁は、睨むようにして、理奈に目配せする。
「ええ、招待状気取りの――決闘状でしょう」
理奈は、同一の黒い封筒を取り出した。
「私の所にも届いていました。クリスマスケーキやおせちの試食会が当たったにしては時季が外れているなと訝しんだのですが、とんだ事情でしたね。救済細胞というのは差出人、もしくは、その者が所属する組織か何かでしょう。どうやら、相沢さんと私が主従関係にあることは、先方には筒抜けのようです。互いのブラックリング、そして夢を賭け――争奪戦に決着をつけようぜ。主旨はそういうことでしょう。そして、万が一こちらが誘いを断った場合、当日ショッピングセンターを訪れている客がどうなるか。想像するに難くはありません」
「客なんてどうでもいいが……」
仁は思わず――言い淀む。
その言葉の尻を拭うようにして、理奈は言った。
「相沢さんが『ご寵愛する姫君』――山野井さんの身も危険です。どうやら彼女は、囚われの身になっているようですね。『心待ちにしている』――助けを待っている。ジャスティスリッパーの犯行がバッサリと止んだので不思議に思っていましたが、彼女はブラックリングの争奪戦に敗れ、救済細胞の手に落ちた。きっとそういうことでしょう」
きっとそういうことなのだろう――
そのようにして、ジャスティスリッパー事件は終結した――
解決ではなく、終結した――打ち切るような、幕切れで。
名推理もない、動機の述懐もない、美しい解決なんてありはしない。それでも仁は、構わなかった。名探偵になりたいわけじゃない、犯人にしたいわけじゃない、そこに美しい解決なんてあるわけがない。なんて酷い推理小説だ。続編など書かれやしないだろうし、書かれたとしても読まれやしない。それでも仁は、構わなかった。書くのは誰だ? 読むのは誰だ? 今閉じられた本の中、それで人生を閉められるはずだった、登場人物達に他ならない。
相沢仁は、噛み締めるようにして、その奥歯を軋らせる――
「馬鹿馬鹿しい……。これは招待状でも決闘状でもねぇ。ましてや脅迫状でもねぇ。これは、これは……」
黒い便箋は――
「救済細胞とやらの遺言状だ――っ!!」
固めた拳の中――潰された。




