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ノートが切れたからコンビニに行ってくる。部屋から出て来た父にそんな真面目っぽい言い訳を吐き、外出用の服に着替え、自立看板の陰に押し隠しておいた理奈をこそこそ連れ出し、そうして仁は、家から少し離れた公園へとやって来た。小さい頃は、主に同級生の目を忍び、千尋とよくここで遊んだものだった。が、公園も歳を取り、どうにもうらぶれた今、点在する若かりし頃の面影は、親近感の中にありながら、どこかよそよそしい空気を仄めかす。脛ぐらいにまで伸びた雑草を、霜を散らせながら蹴飛ばし歩き、座板が色褪せ皹割れたブランコに、やはり霜を払い除け、はみ出さんばかりの尻を落とす。座布団が欲しいがそうはいかない。故に仁は、早々に話を切り出した。
「あれだけ待っておいてだんまりか?」
理奈は、正面に直立していた。まるで、職員室に呼び出されたかのように。
あれだけ――10時間以上も待っておいてだんまりか? ストーカーなのか? かまってちゃんなのか? 仁は、苛立たし気に目を眇める。それでも相手は喋らない。
「コンビニで、おでんでも奢ろうか」
「大根こんにゃく玉子にちくわ、それと餅入巾着も入れてください。とりあえず、以上で」
仁は冗談半分にそう言った。そしたら相手は喋りやがった。奢る趣味はあっても奢られる趣味はない、確かそう言ってなかったか? と言うか、『とりあえず』って何だこの野郎。
「これを、いち早く届けたくて」
一瞬鍋かと思ったが、理奈は懐から、一通の封筒を取り出した――真っ黒い封筒だった。そのせいか、真っ赤な封蝋が、血痕のように生々しい。
21世紀の不幸の手紙は、随分と手が込んでるな……。仁は、そんな小気味の悪い封筒を、矯めつ眇めつ観察した。
「相沢家のポストに入っていたものを無断で拝借しました。アイムソーリーヒゲソーリー」
「誠意が見えんな。立派な土下座でもして見せろ」
「いいでしょう。では焼けた鉄板の上ででも。13秒は堅いですよ」
「お前は利根川幸雄を凌駕するというのか!?」
思わず悪ふざけに付き合ってしまった仁だったが、そのツッコミの勢いをもってして、封筒を一気に破って開ける。中にあったのは、やはり黒い便箋で、やはり血文字のような文字が並んでいた。視線でもって、文字を掃く。便箋には、こうあった――
『クリスマスパーティーのお知らせ
拝啓 街中のイルミネーションが聖夜を祝う今日この頃、黒き指輪で結ばれし兄弟の皆々様は、いかがお過ごしでしょうか。
さて、来る12月24日クリスマスイブ、サックガーデン加護江ショッピングセンターにて、午後6時より、クリスマスパーティーを開催することに致しました。
指輪などでお洒落に装い、是非是非ご友人とご一緒に、お気軽にお越しくださいませ。こちらも恥ずかしくない装いで、歓待させていただく所存でございます。
ご寵愛する姫君も、相沢様のご参加をお心待ちにしております。 敬具
平成25年12月23日
救済細胞』
便箋には――そうあった。




