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「テメェ……頭見ながら言ってるだろう」
望月は、今でも彼を信用できなかった。大嫌いだった。憎んでいるといってもいい。いかにも女に不自由しなさそうなイケメンで、いかにも頭がいいことを自覚していそうなインテリで、そして何より――いかにも孟子を筆頭とする年長者をおちょくっていそうなクソガキだからだ。
「そんなつもりは毛程もありませぇん。そんな毛嫌いをしないでくださいよぉ。もひとつおまけに、そんな脂ぎったメンチを切らないでくださいよぉ」
やはり秀一は、これ見よがしに煙草を吸い始める。
やはり望月は、これ見よがしに白煙を払う。そして――
「残り2人のブラックリング所有者の捜索は、順調なんだろうな?」
俺こそが――姫の右腕だ。お前はせいぜい肩甲骨だ。そのことを秀一に、何より自分自身に、強く強く刷り込むために、居丈高に尋ねて見せる。今は、最後に勝者となるために、あの女を姫と仰ぎ、その右腕という立場に身を置くことが重要だ。秀一もまた、きっとそう考えているだろう。だが、こんな小便臭いフレッシュマンなんぞに、勝利へのチケットを奪われてなるものか。望月は、虫歯の奥歯を噛み締めた。
「勿論っすよぉ。新たに怪しい奴が14人。後で新規のリストを渡しまぁす。望月さんこそ、監視の方はよろしくでぇす」
秀一は、姫の傘下に入るなり、残りのリング所有者の特定を急務とし、このような策を打ち出した――まず、信者を使った人海戦術で、加護江市をCTスキャンにかけるよう、東から西へと検査する。そして発見された異変を、望月ご自慢のストーキング能力で、病変かどうか診断する。病と特定できればこっちのもので、後は姫の力で、切るなり散らすなりどうとでもなる。暴れるだけしか能がなく、暴れていれば向こうからやって来るなどと、所有者捜索をうっちゃっていた姫にとって、それはとてもおいしい話で、秀一の進言を了承し、策の実行を、彼と望月に任せていた。
その働きへの御褒美というところなのだろうか。姫は、毎晩欠かすことのないナイトショーに、決まって家来の2人を連れ出した。しかし家来の一人は――その演目さえも、もう一人の家来によって決定されていることが気に食わなかった。
「リストといえば――お前が姫に提出したターゲットリストの方は、至極不評だったみたいだな。これっぱかしの獲物じゃ、姫の腹の虫は静まらねぇのさ」




