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BLACK RING  作者: 墨川螢
第2章 ジャスティスリッパー事件
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第2章 ジャスティスリッパー事件



『知らない方が幸せ』――こんな台詞を訳知り顔で語る人間に、生きていれば一人や二人は出会うだろう。掃除をしていないパソコンのキーボードは便座の5倍汚い、虫歯菌の主な感染ルートは両親による噛み与えやキス。たとえばこんな雑学を知り、己が日常に異物が混入していたことに気分を害するぐらいならいっそのこと……と、そんな風に結論付けてしまいたいところなのだろうが、しかしながらそれは、『幸せ』とは言い難いのではなかろうか。

 知らなければ、包装袋の上から目を凝らすこともできやしない。知らず知らずのうちに呑み込んで、ふいに喉に刺さったとしたら、それはどう考えても不幸だろう。故に私は、重ね塗りしたバクテリアや虫歯菌を見逃せない。自分の腹も子供の歯も、痛めることは見逃せない。不幸を不幸と見られない不幸――『幸せ』なんていう言葉が、差し込める透間はどこにもない。私としてはそう思うし、そう反論もするだが、決まって訳知り顔は、『意識の問題』であると切り捨てる。

 それはまさにその通り――意識の問題に他ならない。

 格好の例を挙げるなら――相沢仁こそがそれである。自分は最後にブラックリングを授けられた者である、一等最初にその問題意識が、彼には完全に欠けていた。他の所有者四名は、その背中を遥か前方に置いていた。その背中に追い着こうともせず、むしろ見ようともせず、ウォーキングにもならないだらけ切った散歩を楽しんでいたのだから、その道程は、大変『幸せ』なものであっただろう。相沢仁も、先日バーで絡んで来た訳知り顔も(これで三回目である……)、どうしてこうもかわいいのか。『知らない方が幸せ』、彼等にとってこの台詞は――意識の免罪符に他ならない。人間誰しもともすれば、自尊心の半分を寄進とし、その塵紙を手にしたがる嫌いがあるのだろうが、その前に知っておくべきなのだ。トイレットペーパーは36枚重ねて初めて、衛生的に尻を拭き得るのだということを。

 いやはや面目ない。成長した、しているであろう、むしろそうでなくてはならない、そんな将来の私からして見れば尚の事、これは無用極まる説法だった。『さっさとペンを走らせなさい』と、あなたが抽斗から未来の銃を片手に怒鳴り込んで来るというのも末恐ろしい話なので、その要望にさくさく応じることとしよう。

 では、ブラックリング事件第2の事件――『ジャスティスリッパー事件』を語らせていただこう。


 正しいのは、人の道か、解釈か――。


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