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太陽が――天から地へと墜落した。そんな天災を思う程、それらは身体を打ちのめした。瞳を一瞬間焼き払ったその閃光、畳とゴミを跳ね上げ窓硝子を木端微塵に打ち砕いたその衝撃。揺り返しが治まると、仁は丸まっていた身体を解き、背にまぶされたガラス片にも頓着せずに、すぐさま枠だけになった窓に駆け寄った。そして、未だ火傷をしたかのように疼く瞳でもって、轟音の残響の中にあるその光景を、目撃せずにはいられなかった――
見渡す限り、夕焼け色の加護江市の街の至る所から――黒い煙が上がっていた。まるで、太陽を地獄に引き摺り込まんとするかのように、その腕という腕が縋り付く。
動揺に千切れんばかりの心は、やがて叩きのめされて、鋼板のような平静を閃かす。その閃光が明かすのは、真白出版社の断末魔――
これは天災なんかじゃない――人災だ。
加護江市が――爆破された。
「わおわお何かな!? ビックリドッキリのフェスティバルかな!?」
「そんなわけ……あるか……」
悠に突っ込みを入れてはみたものの、ボケを活かそうとする活力は既になく、声が小さく皹割れる。喉が、気持ち悪いぐらいに渇く。
ふいに聞こえた背後からの話し声に振り向き見れば、秀一が、スマートフォンを耳にあてていた。何やら電話の相手と揉めているようだったが、ややあって、舌打ち混じりに何事かを了承した。「どうした……?」なるたけ人と話していたく、仁は秀一に歩み寄る。秀一は、学ランの内ポケットにスマートフォンを納めると、ワインレッドの髪を掻き毟った。
「『加護江中まで早く来て!』……だとよ」
「何だ、仲のいい後輩でもいるのか?」
「それを言うなら、中がいい後輩だな。ケッ! 肉便器の分際で彼女面しやがって」
「…………」
純も不純も、異性交遊の経験自体がない男には、刺激が強すぎる仲だった。自尊心の中に、じわじわ染み入る敗北感。いつかふやけて、張りがなくなってしまいそうだった。
「俺は加護中に行くが、仁ちゃんはどうする? この事態だ、帰っても文句は言わねぇぜ?」
寝起きさながらに、かったるそうに動き出した秀一は、ドアの前で、こちらに首を巡らせた。仁は眉間を揉む。文句なんか言わせるか……。
「この事態だしな、帰らせてもら――」
「悠は行くよ! 面白そう! お神輿担ぐんだ!」
言い終わらないうちに、悠が高々と挙手をし、声と身体を跳ねさせた。勝手にしろ、血祭に浴衣で臨みそうな馬鹿に構っている余裕はない。仁は、帰路という名の退路に就くべく、スクールバッグに手を伸ばす。しかし――
「ああ、だったら話は別だ。仁ちゃん、その馬鹿のお守りをよろしくな」
「はあっ!? 何で俺が!?」
「いやまぁ、別に俺がしてやってもいいけどよ。けれど、ここで仁ちゃんが一人で帰った後、俺が不覚をとって、滝川に何かあったときの事を考えてっか? そんなことが山野井に知れた日にゃ、その日がテメェの命日になるぜ?」
悠の背後に、般若の面から般若の面を覗かせる、そんな千尋が仄めいた。背骨が凍てつき軋みを上げる。おのれ秀一、テメェ今日のこの日を覚えとけよ……。
「わーいわい! 仁くんが、悠のSMになってくれるんだね」
「SPな、セキュリティポリスな……」
無知を教鞭で責めてやりたい。先んじて部屋を飛び出した秀一に続き、仁は悠の手を引き走り出す。




