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BLACK RING  作者: 墨川螢
終わりに
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4-1

終わりに



 ブラックリング事件、如何だっただろうか。と言っても、この記録を読むのが将来の私だけである以上、そんなことを、わざわざ尋ねる必要はないだろう。

 さて、同じく尋ねる必要はないことだが、この記録を書いている時点において、ブラックリング事件を事件たらしめた犯人達は、誰一人逮捕もされていないということは、当然御存知のことだろう。犯人逮捕が事件解決の判だとするのなら、この事件は未解決事件、未だ過去へと退かない、現在に立ち続ける事件だと言える。しかしながら、犯人が判明していないわけではなく、ペイントボマーは橘理奈であり、通り魔は山野井千尋であり、ジャスティスリッパーは滝川悠であり、サックガーデンを占拠したのが救済細胞であるということは、今現在、日本のみならず、世界の政府が知るところとなっている。逝った犯人はさておき、行く犯人を逮捕できない裏には事情があり、それは至極当然の事情なのだが、書き連ねるにはページが足らず、エンターテインメント性も足らないので、またもや私情の下に省略させていただくが、そんなしち面倒臭い事情を生んだ原因を挙げるとするならば――それはあの、相沢仁の、あれらの体たらくをおいて他にはない。彼がもし、リッパー事件が通り魔事件であるうちに、事件を解決していたのなら、そうでなくとも、あの崩壊していくサックガーデンにおける決闘に勝利していたのなら、今や逮捕とも言わず抹殺とも言わず、監獄とも言わず墓穴とも言わず、とにもかくにも見つけ次第ぶち込めと、国際手配になっている、あの『隻眼の魔獣』を、世に出さずに済んだのだから。一つでしかない現実から二つの目を逸らし、そこに夢を見出す私を、それこそ彼女は、駄目な子駄目な子と笑うだろう。しかしそれは、夢だと思ってしまいたい程の、そんな悪夢のような現実(ルート)だった。

 実を言えば、この記録を残す私の目的は、冒頭で述べた、ブラックリング恐怖の伝説を将来の私に新鮮に伝え説くなどという、聖人じみたそれではない。なぜならこの記録は、責任転嫁のデスクで書かれた――ただの愚痴ノートに過ぎないのだから。血は所詮飛び散るものだと知っている。それでも私は、彼のようになりたかった。勤勉である彼のようになりたかった。この広大過ぎる世界で再会を果たした時から、より一層その想いは強くなった。だからこそ、私もインクに込めたのだ。しかし、前へと飛んで行く弾丸には、到底追い付けそうにもない。

 将来の私は、今の私を笑うだろう。愚弟であると嗤うだろう。そして――愚兄であると謗るだろう。そうなりたいと、切に思う。故に今は、精進しよう。愚痴を賢智で踏み潰し、この現実(ルート)こそを、前へ前へと進んで行こう。そうしなければ、私は永久に、兄になんかなれやしない。任務完了の報酬は、妹と酌み交わすラムがいい。

 紹介が遅れに遅れました。(わたくし)、今は霊界中央情報局に所属し、ブラックリング事件対策本部本部長の任に就いております――ホセ・クルース、と申します。

 では、この記録もどきの小説もどきも、そろそろ書き納めにするとしよう。エピローグは、我らが主人公・相沢仁と、その脇役達の、後日談ということでいかがだろう。


 争奪戦というリングの上、固き意志は光っていたか――。


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