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そのダーツの翼には、いつものように、ターゲットマークが光っている。何より、その左手の薬指には、いつものように、目を輝かせる黒き髑髏の指輪が巡っている。いつものように、いつものように――悠がその目を、まるで塵が入ったかのように俯ける。ダッフルコートのポケットへと俯ける。
「いけないんだいけないんだ~! 泥棒さんはね、嘘つきさんの始まりなんだよ!」
悠は、エンガチョをするように、左手の指と指とを絡ませる。が、防御をするつもりは断じてない。黒き髑髏の双眸が血走って、絡んだ指は理奈に向かって振り下ろされる。すると左肩のファンが窄められ、ランスの形をとり、更に回転を纏いドリルとなり、縁を抉り斬るべく突き下ろされる――
理奈はそれを見るや、針路を即座に変更した。身体が駒のように回転し、腕が鞭のように撓り、空気を掘って落ちて来るドリルへと、そのダーツの矢が飛び立った――
それぞれの尖端が触れ合った一点より、擦り傷のような火花が飛んだのは、一刹那の事である――表皮が破裂したかのように、目も眩む爆炎が、点を円へと押し広げる。
空中の理奈は、爆風に煽られながらも身体を律し、床に張り付くように着地する。が、身体を擡げる時間さえも惜しむかのように、床に爪を立てた左手の、黒き髑髏の双眸から、夕焼け色の雷を走らせた――
自分を討つべく伸び迫る穂先を見つめ、悠は上唇をべろりと舐める。燻っていた身体が爆燃したかの如く、緋色の霧が噴き上がる。またもやそれは、彼女を匿い、手込めにしようとする不届き者へ、その肥えた身体でのし掛かり、門前において圧殺した。そして、その不届き者を差し向けた首魁の首を取るべしと、門内から打って出た騎馬隊の如き威勢を棚引かせ、緋色の捩錐が突進する――
しかし理奈はそれを躱し、のみならず、それの周囲を取り巻く空気の流れに、その身を任せて巻かせると、そのまま宙へと投げ出させる。戦況を見定めようと門を潜った戦姫を肩越しに、その目が見下ろす見定める。さながら抜き様に斬り払う刀の如く、腰から打ち出されたその脚が、おかっぱ頭の側部へ飛んだ――
悠は口角をほころばせる。そして、さながら軍旗を掲げるようにして、その脚を高々と振り上げた――
交差する脚と脚――胴廻し回転蹴りと踵落し。
双方同時――蹴りが顔面に突き刺さり、弾き飛ばされ、床の上を転がって、跳ね起きても尚、身体が後ろへと引き摺られた。
爆発によって天井近くにまで打ち上げられ、時の流れからも弾き出されていた幾多の座席の残骸が、今になって、執拗なガベルのように床を叩く。それらと同じくして、座席の陰で完全に書割と化していた仁もまた、はっとし役者に復帰した。その眼前には――サイドテールとパーカーのフードを垂らした、ライダースジャケットの背中がある。彼女は、口内の血を吐き捨てて、その身を立てるその脚を、顕示するように引っ叩く。




