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「何の真似だ。ヘドバンし過ぎたキリンかそりゃ」
イメージはイメージに終わり、その首筋を見下ろした――
スキンヘッドが――高い頭を低くした。
他の黒服達もまた、武器を落とし低頭する。
仁は、組員から出迎えられた組長の気分になった。だが、連中は子分ではなく、ともすれば、未だ見ぬ吾子の仇である。こうして首を差し出してくれたのだ、遠慮なくいただくことにしよう。ゆらりと手刀を掲げ、眼下のうなじに狙いを定める。が、その視線に押されたようにして、うなじから声が滲み出た。
「相沢仁様ですね」
あのけばけばしい笑顔に背く、なかなかに渋い声だった。その感情に温度があったのなら、芳醇な香りが引き立つことだろう。仁は返事をする、掲げた手刀はそのままに「そうだ」
するとスキンヘッドは、面を持ち上げた――
「姫が、三階映画館でお待ちです。御足労願います」
仁は――その眉尻を跳ね上げる。
姫とは、この俺の姫、山野井千尋のことだろうか。だとすれば、どうして俺を千尋のもとに送る必要がある。まるで、俺に千尋の身柄を贈るようにして。どうしてまだまだ使えるはずの人質を、見送る必要があるのだろう。
仁は――その手刀を垂れ下げる。
さてはこいつら、俺を味方にしようとしているな。恐らくは、先に到着した橘に、組織を半壊させられたのだ。それならば筋が通る。俺はその橘に勝利した人間だ。そんな人間に、塩ならぬ砂糖を贈ろうという魂胆だ。愛する女を道具扱いされることには業腹だが、この際そのことには目を瞑ろう。何よりも、千尋の身の安全こそが第一だ。
仁はその胸を高鳴らせる――
千尋は生きている――そしてこの俺を待っている。
「オーライオーライ。だが、トリックはデリートを意味するからな」
「では、御案内します」
応じると、スキンヘッドは今一度低頭した。そしてこちらに背を見せると、フロアの奥へと歩き出す。その背に続くと、他の黒服達も面を上げ、まるで要人を警護するように、仁の周囲に寄り添った。
「ヘイ、サンライズ。こんなにタイトに囲んじまって、みんなで仲良く痴漢でもしようってんじゃねぇだろうな。生憎と、そんな前衛的な趣味には付き合えねぇぜ」
「どうか御寛恕を。こうでもしませんと、姫の御意向に背きかねませんので」
「何だと?」
仁は思わず眉を顰める。拝んでいるハゲ頭とは違って、暗い答えが返ってきた。その答えの意味するところが明かされたのは、一階から二階へと、螺旋階段を上った所であった。出発したときには確かにあった、まさに痴漢をされそうな密接な体温が、いつの間にやら消えていた。肩を叩かれたときのように、首を背後へ巡らせる。そして肝を潰した――
それが、ここまで歩んで来た一団の足跡であるかのように―
点々と――黒服達が横たわっていた。
「我々の輪の中から、外に出ないようお願いします」
スキンヘッドが言った。やはり機械的にそう言った。それでも――誰よりも海の深さを知る船頭のようにそう言った。




