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理奈は、肩で息を繰り返す。それはやはり、慣れない熱罵のせいばかりではなかった。喉から逆巻くような咳が噴出し、身体を折って目を眇める。そんな彼女に幸運が訪れる。その手が拾い上げたものは、一本の薬瓶だった――百薬の長の、瓶だった。近くのリカーショップから転がって来たのであろう。『ロンリコ151』と名乗るプエルトリコ生まれの彼は、カリブの海賊のような荒々しさを持っている。しかし彼女は、そんな彼に挑み掛かるようにして、ディープなキスを交わして見せた。そして何より、あやすようにして、片手でもって高い高い。彼女の喉は、突撃ラッパの如く鳴り乱れ、彼に満ちていた黄金色の自信は、みるみる無色の喪失へと呑まれて行く。
彼女の喉を伝う――無色の雫。
しかし、天国に抱き締められたように反ったその背中は――やがて地獄を抱き締めるように丸まった。そして、足元に転がる、ナイフやダイナマイトや黒縁眼鏡といった遺品の中から、ブラックリングを拾い上げると、半ばまで干したボトルを背後に放る。
「お仲間が肉骨粉になりましたが、掛かっては来ないんですか?」
理奈は、戦場を取り巻いていた信者の群れに、それが骨を粉にする行為だとわかっていながらも、そのように尋ね、振り向いた。その喪服よろしくのスーツを着込んだ連中は、戦闘の始終、まるで墓石のように動かず喋らず、悔いのない死に顔のような笑顔を、ただただ浮かべていただけだった。しかし決着がついた途端、その中の一人が、スマートフォンでもって、何者かに連絡を入れていた。それでも結局、それまでだった。彼等が得物を構えることはない。恐らくは、戦うべからずと命令されているのだろう。彼等の背後に、自分の行く手に、サングラスのブリッジを押し込む男を見出したが、それでも尚、進むことに躊躇はなかった。ライダースジャケットのポケットに両手を突っ込み歩き出す。言うまでもなく、ポケットの中で、爆弾ダーツに手をやりながら。それでもやはり、彼等は戦う素振りを見せなかった。だがしかし――
突如一斉に、フロアの奥へと向き直ると――道を空け、血と煤に汚れた床に平伏した。
先の戦闘の影響で、照明がいくつか壊れているらしく、信者の旋毛のその先には、ぽっかりとした闇があるばかり。理奈は、その中を覗き込む。その真面目くさった顔を覗き込んだようにして――
「ふふ……きゃ……きゃふふふふふふふ…………」
闇が、笑った――
子供のような――無邪気な笑い声だった。
床を舐める炎。姿形を露わにしたその闇は、そんな下賤を蹂躙する。その足音を、釘のように刺しながら。悲鳴を上げて悶える炎の中――ダッフルコートの裾は、熱風を弄ぶように揺らめいて、黒髪の表面は、灼熱の色を袖にするかのように滑り落とす。はだけたコートから覗くのは、私立平馬高校の、黒い黒いセーラー服。右手には、黒石目塗りの鞘の日本刀。
そんな相手の顔に、理奈はぶれることなき視線を突き付ける。




