3-17
サンタやスノーマンのエアブロー、リボンやベルで飾られたスワッグ・アーチ、ベツレヘムの星が峰からダイヤの輝きを注ぐ巨大なクリスマスツリー――そんな聖夜の美麗さを切り開くようにして、そのオレンジの閃光は迸る。爆発するターゲットマーク。塵芥をまぶされた黒煙が、もうもうと巻き上がり、ここが戦地であることを告示する。
いかに相手の能力が戦闘向きではないとはいえ、あの二丁拳銃に真っ向勝負を挑むのは、報われない自殺とイコールだ。橘理奈は、冷静だった。黒煙の煙幕に紛れ、ステージを反時計回りに周回する。十二時の方向、ステージの裏に聳えるクリスマスツリー。その逞しい幹に背を預け、風邪に荒ぶる息を押し殺す。そして首を慎重に捩じり、時計の中心へと、ともすれば溶け落ちそうな視線を刺し入れる。そこから立ち昇る黒煙は、未だ止まる気配がない。しかしその気配は、生々しく感じ取れた。興奮によって、引き摺り回される息遣い。耳の穴に、舌を挿入されている気分だった。黒煙に隠れて、姿は見えない。しかしターゲットは、そこにいる――望月辰夫は、そこにいる。煙の中では視界が利かない、銃の狙いも定めようがない。相手は必ず煙の中から脱出する。姿を見せた瞬間、仕留めてやる。理奈は、ターゲットマークを張り付けたダーツの矢を、シャープペンのようにくるりと回す。が――
「丸見えだってぇの――」
煙を煙雨に変えてしまいそうな――湿った声。
理奈が目を剥くのと、炸裂音が煙を穿ったのは、ほとんど同時の動きであった。咄嗟に頬を引っ剥がしたツリーの幹が抉れ、木片が目の前に弾け飛ぶ。
煙幕が、晴れて行く――「くくくく……」これ見よがしに笑みを掲げ、聞こえよがしに太鼓腹を鳴らしつつ、望月辰夫は姿を見せた。手にした大型リボルバーの銃身で、豹柄のハゲ頭をノックする。
「見させてもらったぜ、そしてこれからも見るぜ――その背中をよ。岡島の野郎から聞いてねぇか? 俺の進化形能力は、監視能力だってことをよ。テメェがどこにいるのかさえ把握できれば、煙の中だろうと闇の中だろうと、大よその狙いはつけられる。脳みそはお留守かい? クソガキが」
訪問販売はお断りです……。思わずキャンディーの棒を噛み締める。『後ろの鉄面』――岡島秀一の動きを半ば封じたその監視能力の存在は、確かに聞き及んでいたのだが、こういう形で脅威になるとは思ってもみなかった。まるで、もたれたツリーに蟻が巣を作っていたかのように、むず痒い視線が背中を這う。監視されるのは嫌いだった。そしてそれに束縛されるのは、もっともっと嫌いだった――
理奈は――ツリーの陰から、意を決して飛び出した。
「そらそら逃げろ!」
望月が――待ってましたと言わんばかりに、二丁拳銃を連射する。
理奈は、ストップウォッチの針のように、ステージ外周を駆け回る。ラバーソールが人工大理石の床に、アレグロの足音を刺して行く。そのブラックレザーが引く影を断ち切るようにして、マグナム弾が降り注ぎ、弾痕の足跡を穿って行く。




